Quantcast
Channel: ゲストポスト –きんどう
Viewing all 186 articles
Browse latest View live

【書評】王様のブランチをそこそこ楽しんでる場合じゃない 吉田貴司『やれたかも委員会』

$
0
0

こんにちは、きんどるどうでしょうです。新企画「きんどうが気になってる新刊を代わりに紹介してください(仮)」。あのとき、もしかしたら、あの子と……というやりきれなさに悶える話題作『やれたかも委員会』のレビュー頂きました。

こちらはCakesやNoteとネットメディアで掲載されている話題作の書籍化ですね。テーマがテーマなので賛否両論もあるのですが、積極的に頑張っていた人だとまぁ、なんらかしかがね? 飲みの席で語るしかなかったネタがこうね?

本作は紙が双葉社から。電子版は佐藤秀峰さん率いる電書バトから発売で最初から半額相当で発売してますね。ただ、保坂和志さんとの対談記事は無いようなんですが。第1巻の続きはそのままnoteで販売されているそうなので、気になった方はそのままぜひ。新しい連載のやり方なので興味深い。


ネット上が騒然 吉田貴司『やれたかも委員会』

どーも、写楽斎ジョニー(@sharaku_johnny)です。はやくも三度目。最近刊行されたその『やれたかも委員会』の書評です。

読者諸賢は吉田貴司という稀代の漫画家をご存知でしょうか。

2006年に商業誌デビュー。『ブラックジャックによろしく』の佐藤秀峰さんの事務所で作画スタッフに加わるなど、紆余曲折を経て、2016年にネット上で話題沸騰の本作『やれたかも委員会』を発表。そのあまりの衝撃的な作品テーマに、いまだにネット上が騒然としています。

人生には「やれたかもしれない」経験がある

私が彼の作品に出会ったのは2009年。忘れもしない、モーニング・ツーの紙面でのことでした。その作品のタイトルは『フィンランド・サガ』、当時すでに熱狂的に支持されていた幸村誠著『ヴィンランド・サガ』のあけすけなまでのオマージュしたタイトル、それでいてテーマがフィンランド名物のサウナという抜けっぷり。

その全盛期の今中慎二を彷彿とさせる緩急に、私は惚れ込みました。そして2016年。私はまた、この筆者の鋭い切り口と呑気な視点に、惚れることになったのです。

個人差は大いにあるでしょうが、異性と積極的に関わろうとし続けていると、大なり小なり、性的な交渉を望める機会があるものです。それが今回のテーマである「やれたかも」というやつです。

一話完結の本作品。毎回どこからか登場する相談者は、自身の異性との交流がどれくらい「やれたか(野暮ですが、平たく言えばワンチャンセックス)」の判断を、「やれたかも委員会」に委ね、その結果を受けて取り戻せない時間と甘かった経験を味わい、その切なさと愛おしさに、再度酔いしれるのです。

そのワンチャンス具合が微妙であれば微妙であるほど、己の後悔は深く記憶に焼き付くことになるのですが、それも含めて楽しもうというのが本作の懐の大きいところでしょう。

やれたかも委員会のメンバー

この「やれたかも委員会」は3人で構成されています。髭のリーダー・能島明、クールなメガネ女子・月満子、ミュージシャン・パラディソです。

この三人が、絶妙な距離感で相談者の経験を彩ます。賞賛したり、皮肉ったり、刺激したり。とくに女子の月満子が、作品を「落とす」絶妙な役割を担っています。

本作では相談者が経験を語り終えた後、「やれたかも委員会」が多数決による「やれた」度を判定。その後に各メンバーがそれぞれコメントを施すのですが、ここで月満子の放つコメントが秀逸です。相談者を、そして読者を、現実に引き戻すかのような切れ味鋭い一刀両断。まさに冷水をかけるよう現実的な意見によって、物語がキレイにオチます

体験の生々しさが異常



この作品のすごいところは「やれたかも」というあけすけで直球で、それでいて「やれなかった」という恥ずかしい側面をはらみ、なかなか現実的に相談しづらいところに踏み込んでいることですが、それに加えて物語の生々しさも見逃せません。

人妻にふいに電話番号を聞かれるくだり、突然指を絡ませられるくだり、酔った相手に急に腕を絡ませられるくだり、パーカーを奪われておんぶを強要されるくだり。どれも実話と思わせるに十分なリアリティをもって語られます。これが読者に、本当に「やれたかも」と思わせ、どれくらい「やれたか」について考えさせます

そして前述の通り、月満子さんのオチ。この無敵のコンビネーション。見事としか言いようがありません。

noteで一話無料公開中

noteで第一話が無料公開されています。一話を読んで、面白ければきっとずっとこの漫画が好きです。一話を読んで、そうでもなければずっとこの漫画がそうでもないです。

他人の「やれたかも」な話を聞くのがこんなに面白いだなんて、思いもしませんでした。基本的に男性視点のものが多いですが、第一巻には女性視点のものもあります。てか、女性も「やれたかも」とか思うんですかね。

月満子さんの秀逸な落とし具合も必見。是非ご一読あれ。

AmazonKindle電子書籍で『やれたかも委員会』

やれたかも委員会 1巻

吉田貴司 (著)
価格:450円

もしもあの時、勇気を出していたら…そんな誰もが心に秘めている忘れられない夜を犠星塾塾長 能島明、ミュージシャン パラディソ、そして財団法人ミックステープ代表 月満子が判定します。「やれたかもしれない夜は人生の宝です。」ネットで話題のあの作品が待望の電子書籍化(……)(保坂和志さんとの対談記事は紙書籍のみの収録となります。ご注意ください。)

きんどうが気になっている新刊レビューしてくれる方募集

⇒ 続きを読む

【書評】『彼女のひとりぐらし』の玉置勉強 最新作は新感覚スイート・パフェ・コメディー『パフェが好きでもいいじゃない』

$
0
0

こんにちは、きんどるどうでしょうです。新企画「きんどうが気になってる新刊を代わりに紹介してください(仮)」。『彼女のひとりぐらし』『親父の愛人と暮らす俺』玉置勉強の最新作『パフェが好きでもいいじゃない』のレビューをいただきました。

小学館月刊スピリッツ!で連載。実在のお店もでてきますが"何の販促もないので私が宣伝するしかない"とツイートされていたのでハワワワとなりましたが、無事電子化もされたようでなによりです。

レビュアーさんも書かれていますが、人の機微というか言い表しにくい葛藤を描く玉置勉強さんが描くグルメ漫画。どうやら、そこまで身構えずともスイーツ・パラダイスを気軽に楽しんで大丈夫そうですね。


サッカーもパフェも真剣勝負!「パフェが好きでもいいじゃない」

はじめまして。このたび書評を書かせていただきます、「A.薬缶α@akasat_aka_naha」と申します。よろしくお願いいたします。

「パフェが好きでもいいじゃない」はどんなグルメ漫画?

最近、廃るどころか更なる人気を見せているグルメ漫画。人気の火付け役となった「孤独のグルメ」の新刊が発売されたこともあって、ジャンルとしてより一層の細分化と賑わいを見せていくことが予想されます。

今回ご紹介させていただきます「パフェが好きでもいいじゃない」は、ベテラン作家である玉置勉強先生の新作です。最近では「彼女のひとりぐらし」や「親父の愛人と暮らす俺」が有名でしょうか? 可愛らしくもどこか影があったり、人間同士の独特な距離感を描くことが多かった玉置先生にしては珍しく、順当に可愛らしい女性が描かれていて少しばかり驚いてしまいました

さてそんな今作ですが、主人公の伊勢が二部の女子サッカー選手として邁進する前半パートと、そんな彼女がパフェを食べ歩く後半パートと2パートに別れている作品です。サッカー選手がパフェを食べるグルメ? また流行りにあやかっただけの漫画なんでしょ? なんて思われてしまうかもしれませんが、この漫画には流行りに乗って有り余る魅力が溢れています。

主人公の二面性 サッカーの顔とパフェの顔

フランスでサッカーをしていた伊勢はチームメイト、監督、サポーターからも愛され、信頼されている名選手です。そんな彼女は一部からのスカウトを蹴って、チームとして一部リーグへ昇格するため日々邁進しています。そのため時には厳しすぎる一面を垣間見せてしまうこともあります。

あまりにも厳しくしすぎて、チームメイトから嫌われてしまったのでは……と自己嫌悪にかられてしまうことも多いです。しかしそんな彼女にはチームメイトの誰も知らない一面がありました。それは——

練習後、誰よりも早く帰宅して、パフェを嗜むことでした。

このうっとりとした表情にピンと来たアナタは、この「パフェが好きでもいいじゃないか」を誰よりも楽しめる方だと思います。サッカー中の真剣な表情とパフェに現を抜かして緩みきった表情、そのギャップが堪らなくかわいらしいです。パフェを食べるたびに、それぞれ異なった魅力的な笑顔を見せつけられれば、こちらまでパフェを食べたくなってきてしまいます。

また今作の売りはサッカー選手ならではの、少しばかりやりすぎにも思えるグルメリポートにあります。

「みかん! バナナ! 生クリーム!」「サッカーで例えるなら4−4−2?」「それと4−3−2−1?」なんて、分かるような分からないような……本気なのかギャグなのか、なんとも味のあるリポートを行ってくれます。思わず納得してしまうものから「ん?」と首を傾げたくなるものまで多種多様。

レポートに「サッカー」という縛りを与えてあげるだけで、これほど表現の幅が広がるのかと思うと、これだけたくさんのグルメ漫画が量産されている現状も頷けます。

パフェから得られるモノは幸せだけじゃない

読み進めていくことで味が出てくる魅力として、ただ主人公がパフェを食べて満足するだけでは終わらないというおもしろさがあります。いろいろなパフェ、そして店員との出会いを通しているうちにパフェから教訓を得る場面が多く出てきます。

器に盛られたパフェ、それを提供する店、店員、それら1つ1つに物語があり、理由があり、それを噛み砕いているうちに人間的に成長していくという面白い構成をしています。しかしまあ、人生なんてそう簡単にうまくはいかず、現実の辛味や苦味を紛らわすために甘い甘いパフェを食べて……そんなふうに日常を一歩一歩、確かに踏みしめてゆく。

「パフェが好きでもいいじゃない」はそんな人間味に溢れたグルメ漫画です

AmazonKindle電子書籍で『パフェが好きでもいいじゃない』

パフェが好きでもいいじゃない(1)

玉置勉強 (著)
価格:540円

女子プロサッカーチームの頼れるキャプテン・伊勢裕香。 普段はチームをバチバチ引っ張る大黒柱だけれど、 女子だもの、時にはちょっと甘えたい… そんな彼女を唯一癒やしてくれるのは…そう、パフェなんです!! 日々のプレッシャーとストレスをパフェで吹き飛ばせ!! 新感覚スイート・パフェ・コメディー!!

きんどうが気になっている新刊レビューしてくれる方募集

⇒ 続きを読む

【本宣】オモコロの社員としても話題のダ・ヴィンチ・恐山こと品田遊の新作SF短篇集『名称未設定ファイル』

$
0
0

こんにちは、きんどるどうでしょうです。出版関係者・クリエイターご本人から作品紹介をいただく番組宣伝ならぬ【本宣】。今回は品田遊の新作SF短篇集『名称未設定ファイル』の案内を担当編集者さんからいただきました。

品田遊=ダ・ヴィンチ・恐山さんは初単行本『止まりだしたら走らない』をカリスマニュースサイト管理人・まなめさんに書評いただきましたね。あれから約2年。連続でなんからしかの企画にうち関わってますね。

前回は東京の中央線がテーマの連作でしたが、今回はSF短編集とまた極端な振り方をしてきましたね。ダ・ヴィンチ・恐山はTwitterでは超有名ですが、知らない方は是非『オモコロ > ダ・ヴィンチ・恐山』の記事を御覧ください。フヒヒッってきます。

[スポンサーリンク]

オモコロの社員としても話題のダ・ヴィンチ・恐山こと品田遊の新作SF短編集

担当編集の黒川くりす@krikuroです。Twitterで7万フォロワー以上、人気ネットメディアオモコロの社員としても話題のダ・ヴィンチ・恐山こと品田遊の新作SF短篇集が発売しました。

デビュー作『止まりだしたら走らない』が各所で話題になって以来、2年振りとなる新作。はっきりいってめちゃくちゃおもしろいですよ!面白い!すごい面白いです!!

この本が完成するまでの一年間、原稿を受け取るたびに悶え震えました。鋭い眼で今と未来を観察して、観てきたように繊細な未来を描く、新しい時代のSF小説短篇集です。

加速するテクノロジーに感じていた漠然とした不安はこういうことだったのか? 彼の目には世の中がこう見えているのか。大喜利の鬼才としても知られるダ・ヴィンチ・恐山にしかできない、壮大な大喜利のような、世界への警鐘のような作品です。

物語と現実の境目に連れて行ってくれる、現実の感覚をおかしくさせるVRを体験するような小説を超えたエンターテイメント!

ネットでは、『名称未設定ファイル』読了。思わず考えさせられた。軽く読める本だが扱われているテーマは現代を象徴しており、非常に示唆的。空想の一言では片付けられない何かを感じた。というレビューが多くあがっています。

とにかく読めばわかる面白さです。今一番注目の作家、品田遊の新作、是非読んでみて下さい。

本文より

「フランシスコ・ザビエルbot」は寿也のサブアカウントだ。フォロワー数は9219人。宣教師フランシスコ・ザビエルになりきったツイートをする。

フランシスコ・ザビエルbot@f_zabieru_bot
日本人。。。。スイカ大好き。。。。でも。。。。日本人。。。。スイカ棒で殴る。。。。
ドウイウコト。。。。

母が一口サイズに切ったスイカを爪楊枝で食べながら、寿也は「スイカ」をテーマにしたツイートを送信した。botと言っても手動アカウントであり、寿也の気まぐれで書いた日本文化いじりネタは一部のTwitterユーザーにちょっとした名物のように扱われている。

何度もリロードするたびに「RT」と「♡」が増えていく。ものの5分でザビエルbotのツイートは100 RT、210お気に入りを超えた。寿也は次に検索ワード「ザビエルbot」でエゴサーチを開始する。

ザビエルbotwwwwwwwww
ザビエルbot、ひっさしぶりに見た。
なにこのザビエルbotとかいうの草なんだけど

『最後の一日』より

ネガティブになっています。誰かこのブログを読んでいますか? みなさんはこのブログを読んでいますか? 美容ブログ、とっても大切ですよね。みなさんはこのブログを読んでいますか? 不安ですよね。なんのために? ぜひお買い求めください。心配ですよね。とっても不安です。私は代なのですが、私は必要があるのでしょうか? 私は自動で生成する驚きの効果なのですが、私は必要があるのでしょうか? ぜひ読んで参考にしてくださいね。私は必要があるのでしょうか?

『1日5分の操作で月収20万! 最強ブログ生成システムで稼いじゃおう』より

Kindle版は7月10日発売『名称未設定ファイル』

名称未設定ファイル

品田遊 (著)
価格:1,200円

SNS、クラウドソーシング、人工知能、フェイク・ニュース、管理・監視社会、電脳世界―― 現実のリアルな事象をモチーフにした話から、近未来、超未来を舞台にした物語まで、 SF、ブラックジョーク、パスティーシュなど様々なジャンルを横断する短篇集。 小説デビュー作品『止まりだしたら走らない』が各所で話題となった 今注目の若手作家が鋭い分析力と想像力で紡いだ17篇。

⇒ 続きを読む

【書評】綺麗と悲しいと切ないがたくさん詰まった、魅惑の小説 乾ルカ『ミツハの一族』

$
0
0

こんにちは、きんどるどうでしょうです。新企画「きんどうが気になってる新刊を代わりに紹介してください(仮)」。文庫化でお手頃価格になりました乾ルカ『ミツハの一族』のレビューをいただきました。

Kindleでは2015年発売の単行本といまも併売されていてちょっとややこしい状況ですね。さて本作は「大正時代の北海道を舞台にした著者渾身のミステリ」と銘打たれてますね。

乾ルカさんは先日代表作の『メグル』が日替わりセールになっていましたが、死を題材にしながらもホラーというよりは死者の孤独などを描くことに長けた作家さん。"衝撃のラストまで一気読み必至!"という連作短編集を是非お楽しみください。


綺麗と悲しいと切ないがたくさん詰まった、魅惑の小説 乾ルカ『ミツハの一族』

きんどうさんの企画で書評を書かせて頂くのは二回目になります、えー@a_granhonと申します。よろしくお願いします。このたび私が紹介するのは、乾ルカさん著『ミツハの一族』です。

個人的に、乾ルカさんは短編の名手だと思っています。なにせデビュー作、直木賞候補作、大藪春彦賞候補作のどれもが短編集ときているのですから。作風の傾向としては、ホラーテイストだったり、どこか死を連想させるような、ダークなファンタジー要素を含んでいることが多いでしょうか。

本作『ミツハの一族』も五本の短編からなる連作形式で、さらには死者の想念を題材としており、作者が最も得意とする分野で書き上げたことになります。迷信と怪綺談、そしてどこか切ない結末。過去の作品でいえば、デビュー作である『夏光』との類似点が顕著ですね。作家生活の初期から描き続けている世界観を、今回も披露してくれます

死者の未練が村を滅ぼす

舞台は大正時代の北海道。遠い信州の地から入植してきた人々の暮らす集落、小安辺村で物語は展開されていきます。

村人の多くは入植以前から農業で生計を立てており、水源の確保は死活問題です。生きるため森を拓き、池を作り、村に水を引く。そこまではよかったのですが、とある問題が発生します。せっかく苦労して作り上げた池の水が、赤く濁り始めてしまったのです。

村人達に代々伝わる伝承によれば、水が濁るのは死者の無念が原因とされています。この世に未練を残して死んだ者は鬼となり、村の水を赤く濁す。未練を断ち切らない限り、水は元に戻らない。放っておくと、村は滅びるしかない。

そもそも彼らが北海道に入植してきた理由も、鬼と化した死者によって故郷の水源を汚されてしまったせいだったりします。一度滅んでしまった村の住民が新天地でも同じ危機に見舞われているという、切羽詰まった状況からストーリーは開始します。

村を救える唯一の一族

そんな小安部村ですがまだ希望は残されており、それが八尾一族の男女です。この家系は水の神を祀る神職の一族で、男は烏目役と呼ばれ、絶大な権力を与えられています。命じさえすれば、村人の命さえ自由にできるほとに。

女の方は水守と呼ばれ、池に立つ死者の姿を見ることができる、一種の霊視能力を授かっています。この男女ペアの探偵役がそれぞれの力を合わせて、鬼と化した死者の未練を晴らしていくミステリ風のストーリー仕立てとなっています。

鬼となった死者は誰なのか? 何が心残りなのか? 推理し、解決する。とはいっても謎解きそのものが主題ではなく、どちらかというと人間模様を描くことに力を入れているように感じます。出て来る鬼達も攻撃的な悪霊というわけではなく、同情的な理由でこの世に留まっている悲痛な地縛霊とでもいうべき存在で、なんとしても彼らの無念を晴らし、成仏させてあげたいと思わせるようなケースが多いです。

耽美に彩られた世界観

と、ここまで紹介したのは作品の骨組みであるあらすじ部分で、肉付けである文章のトーンはというと、しっとりした繊細な筆致が続きます。人も自然もどこか湿り気を帯びた、危険な美しさを孕んだものとして描かれています

特に八尾一族の女、水守は妖しげな存在感を放っており、その美貌から作中の男達を次々と虜にしていきます。主人公にして鳥目役の八尾清次郎もまた心を奪われた者の一人なのですが、水守の肉体が抱える様々な事情により二人が結ばれるのは困難となっています。

恋と呼ぶには距離があり、かといって友情や信頼と呼ぶには踏み込み過ぎている。清次郎と水守の、危うい関係性も本作の見所でしょうか。悲恋、あるいは禁断の恋と言って構わないと思います。水守の身体的な事情は早くに明かされるのですが、それによって大きく魅力が損なわれるとは感じませんでした。むしろ人によってはさらに思い入れが強まるかもしれません。

肉体という枷があるからこそ、プラトニックに燃え上がる清次郎に感情移入するのはそう難しくないはずです。読んでいるうちに私はどんどん水守の幸せを願うようになっていました。非常に特殊な設定でありながら、読む者を惹きつける手腕は見事と言わざるを得ません。

危うい魅力に溢れた、水守のキャラクター性が本作を読み進める原動力になる方は多いと思われます。
 

和風ミステリ、伝奇好きには特にお勧め

因習の支配する、古い日本で起こる事件を題材としているためか、横溝正史作品に通じるものがあると感じました。それをよりナイーブに、女性的な方向にしたような雰囲気でしょうか。鬱蒼とした森の奥にある池で、死者にひっそりと語りかける情景を思い浮かべながら読むのは、今の季節にぴったりなはずです。綺麗と悲しいと切ないがたくさん詰まった、魅惑の乾ルカ空間をぜひ皆さんにも堪能して頂きたいと思います。

AmazonKindle電子書籍で『ミツハの一族』

ミツハの一族 (創元推理文庫)

乾 ルカ (著)
価格:670円

未練を残して死んだ者は鬼となり、水源を涸らし村を滅ぼす―。鬼の未練の原因を突き止めて解消し、常世に送れるのは、八尾一族の「烏目役」と「水守」ただ二人のみ。大正12年、H帝国大学に通う八尾清次郎に、烏目役の従敬が死んだと報せが届いた。新たな烏目役として村を訪ねた清次郎。そこで出会った美しい水守と、過酷な運命に晒される清次郎を描く、深愛に満ちた連作集。

【東京創元社無料読本】 乾ルカからの招待 ここだけの『ミツハの一族』

乾 ルカ (著)
価格:0円 無料

2015年4月、大正時代の北海道を舞台に、水辺を守る一族を鋭く描いた著者渾身の連作ミステリ『ミツハの一族』を刊行いたしました。その魅力を、多くの皆様に楽しんでいただくため、『ミツハの一族』収録の短編「水面水鬼」をまるごと一編立読み増量版として、また、より作品世界を楽しんでいただけるよう、本作にも登場する北海道大学について語ったエッセイ「北海道大学とわたし」、メールインタビュー「ミツハを楽しむ十の質問」をあわせてお届けいたします。

きんどうが気になっている新刊レビューしてくれる方募集

⇒ 続きを読む

【書評】女子飲酒マンガを比べてみました『ルーツビア』『のみじょし』『たくのみ。』

$
0
0

こんにちは、きんどるどうでしょうです。新企画「きんどうが気になってる新刊を代わりに紹介してください(仮)」。『ルーツビア』の書評の発展系として女子飲酒マンガ3作品の比較をいただきました。

グルメ漫画ブームの中で、最近飲酒ジャンルが熱くなってますね。最近のセールでも人気だった迂闊『のみじょし』、そして"裏少年サンデー"の火野遥人『たくのみ。』……少年?でいいのかな……まあいいや。

ほかにも『ぷしゅぅ〜』でおなじみ『ワカコ酒』や『酩酊すみれさん』『おとなのほうかご』……ちょっとズレますが『山と食欲と私』にも飲酒シーンがありますね。ビール飲みたくなる気持ちを盛り上げる漫画作品を是非この機会に選んでみてください。


女子飲酒マンガを比べてみました

こんにちは、初めまして、なだ@nadayoroiです。

ルーツビアの書評、他にも二人の方がされているので、もうぶっちゃけ語ることは何もないですね! なので私は違う切り口から攻めてみたいと思います! 女の子×お酒 というテーマで勝手に選んだルーツビアと他二つの作品を比較していきますよ~。共通点は複数の女の子がお酒を飲む!それだけです。

ルーツビア 1

ルーツ (著)
価格:600円
★★★★* 9件のレビュー

おさけ呑むべし、酒のむべし♪ ビール好きOLのすずが友人たちとたまにひとりで、そして時には見知らぬお客さんとグラスを傾ける。ニコニコ静画で400万再生突破のほろ酔いお酒漫画『ルーツビア』、100ページ超の完全新作を加えて登場です。

のみじょし(1)

迂闊 (著)
価格:491円
★★★★☆ 37件のレビュー

読めばモーレツ飲みたくなります♪ 高瀬道子(たかせみちこ)、29歳独身。 美味しいお酒の前でははしゃいでしまう、ちょっぴり残念なアラサー女子。 基本はビールや日本酒、時には渋めにウイスキー…同じ年のゆきやソノさんとついつい飲みすぎちゃって…。 「月刊まんがくらぶ」で大人気連載中の酒好きアラサー女子の呑ん兵衛コメディ4コマ! 新鋭・迂闊デビュー作にして初コミックス!!

たくのみ。(1)

火野遥人 (著)
価格:596円
★★★★* 18件のレビュー

転職のため東京にやってきた天月みちる(20)。 上京した彼女は、女性専用シェアハウスに住むことに! アパレル店員、ウエディングプランナー、女子大生。 仕事も年齢もバラバラな同居人たちだけど、 美味しいお酒と料理があれば、今日もみんなが集まって…!! 話して呑んで、疲れを癒やす“ほっこり暮らし”始まります♪

みんなビールを片手に飲んでますね。ルーツビアは料理もたくさん並んでてお酒をのみたくなる、いい表紙です。作中でもたくさんの酒の肴が出てくるので、読むとお酒を飲みたくなってしまいます。

のみじょし、はこの大きなビールジョッキがたまりませんねえ。アラサー女子の悲哀がいつも胸にきます。もはやヤケになって、開き直りながらの飲みっぷりは見ていていっそ清々しい限りです。たくのみ。のビールはやっぱり宅飲みなので缶ですねっ。ちょっと酔って目がとろんとしている感じが可愛いです。

さて、3作品の飲みっぷりを比較してみる

ルーツビア

のみじょし

たくのみ。

これはのみじょしが圧倒的に気持ちいい! 強すぎる飲みっぷりですね。

ルーツビアはOLの三人が色々な場所でビールを飲む、という感じ。とにかくフットワークが軽いので、居酒屋もファミレスも野球場にだって行っちゃう。わいわい騒ぐわけではないけれど、じわっと笑えるギャグを織り交ぜて、ビール飲んで、いつも変わる飲むその場所を楽しみます。

のみじょしは対してアラサーのヤケ酒を横で楽しむ感じでしょうか笑。とにかく、っぱああーーー! と酒を飲みます。そしてテンションが高い笑。行ってみたい、とかこんな風に飲みたい、とかうんちくがある! というわけではないのですが、29歳の彼女ら三人のお酒のある日常をみて楽しめます。

たくのみ。はやはり家で試したくなるお酒の飲み方、というのが多いですね。ルーツビアが外に出て実際に登場したたくさんの場所で飲みたくなるのに対して、たくのみ。は実際に登場したその話ごとのお酒を買って家で飲みたくなります笑。お酒のうんちくや豆知識も豊富で、楽しく学べます。

3作品を特徴で比較してみる

「ルーツビア」野球場にて、こういうおっさんたまに見かける

「のみじょし」シャンパンあけるのにこのテンション

「たくのみ。」お酒の豆知識が豊富で勉強になる

ルーツビアは、ここでビールを飲むか~、とビールを飲む場所とその場所に合ったビールを飲む感じ。もうなんかみんなおっさんなんですよね笑。たぶん外見をおっさんに変えても違和感がない。そこがなんかたまにシュールで、じわじわと面白さがきます。

のみじょしは、お酒が好きなアラサーの日々を描く感じ。独身の主人公はお酒の前ではすごくはしゃぎます笑。もうとにかくテンションが高いので、こんなうまそうにお酒って飲めるんだ、って感心します。体すべてを使ってお酒を飲める喜びを表現してる、みたいな笑。

たくのみ。は、家で試したくなる飲み方とかお酒のうんちくを学びながら可愛い主人公たちのシェアハウス生活に癒される感じ。可愛さは三作品の中でもダントツですね。

「ルーツビア」お店の選び方

「のみじょし」かにと日本酒

「たくのみ。」お姉ちゃんを心配する妹

ルーツビア、引き戸で店を選ぶこともあります、怪しい中華料理店にだっていきます、チェーンのお店にだって足を運ぶ。だからこそ、失敗することもあるんです。でも彼女たちはきっと、今日も新しい場所へと美味しいビールを求めていくのでしょう。

のみじょしの飲みっぷりは圧巻です。かにと日本酒! いいですね、やっぱりかにみそ食べたあとの殻に日本酒いれて飲みたいですねえ

たくのみ。可愛いですねぇ〜。とにかく優しい世界。仕事で疲れて帰ってきてもおかえりって言ってくれるルームメイトがいる。とにかくみんながみんな、他人を思いやる気持ちがあって、大切にして、その人のために何かをしてあげたいと思って、一緒にお酒を飲みます笑。

最後に、各作品のヒロインについて

ルーツビアの主人公、すずの職業は不明。

居酒屋でドライバーとかスパナをおもむろに取り出すことがある。たぶん、年齢も不明。酒にストイックなOL。焼肉にもストイック。一番おっさんっぽい。ボケ担当。一人でも居酒屋にほいほい行っちゃえる。というか吸い込まれてく。すずのボケはじわりとニヤリとします。ですが、なんといっても酒に対するストイックさが彼女の魅力です。

のみじょしの主人公、道子。29歳。独身。お尻フェチ。ビール好き。

最近の悩みは尿酸値の高さ(ビールの飲みすぎ)。年齢を重ねたことによる体のおとろえも感じている。落ち込んだり元気になったり、ジェットコースターみたいな人。

出張先の立ち飲み居酒屋で荷物をなくさないように、背負うこともできるツーウェイカバンを持ってくる。とにかく感情がすぐにでるんですよね。美味しい食べ物とお酒を目の前にすると目をキラキラさせて。そして美味しそうに食べて飲む笑。父にプレゼントするはずのお酒を間違って飲んじゃうとこなど、残念なところもあるけどそれがまた哀愁漂っていいんです。

たくのみ。の主人公は上京してきたばかりの新入社員

若いですね〜。高校を卒業してすぐ就職したので社会人歴はあるんですけど、初めて暮らす東京での生活に期待と不安を抱えながら女性専用シェアハウスへと越してきます。

お酒は飲み始めたばっかりだけど、将来を期待させてくれる飲みっぷりです。とにかく健気で可愛い。憧れの東京人になるために奮闘する姿はずっと見守っていたくなる。仕事はまだまだだけど、よくがんばっていて、でもそれが裏目に出てしまうことも。同じシェアハウスの住人に励ましてもらったり、一緒にお酒を飲んだりしながら、明日もがんばるぞい! と気合いをいれます。

いかがだったでしょうか? 女の子×お酒というところは一緒でも、それぞれの作品にはそれぞれの良さがあります。また、やっぱり読んでみないとわからないことも多いですし、好みもあるので、自分に合った作品を見つけられるとうれしいですね。でもどんなお酒だって、飲んでみないと味はわかりません! ぜひこの三作品も読んでみてください!! たまには読(飲)みすぎることがあってもいいかもですね笑

AmazonKindleで好評配信中です

ルーツビア 1

ルーツ (著)
価格:600円
★★★★* 9件のレビュー

おさけ呑むべし、酒のむべし♪ ビール好きOLのすずが友人たちとたまにひとりで、そして時には見知らぬお客さんとグラスを傾ける。ニコニコ静画で400万再生突破のほろ酔いお酒漫画『ルーツビア』、100ページ超の完全新作を加えて登場です。

のみじょし(1)

迂闊 (著)
価格:491円
★★★★☆ 37件のレビュー

読めばモーレツ飲みたくなります♪ 高瀬道子(たかせみちこ)、29歳独身。 美味しいお酒の前でははしゃいでしまう、ちょっぴり残念なアラサー女子。 基本はビールや日本酒、時には渋めにウイスキー…同じ年のゆきやソノさんとついつい飲みすぎちゃって…。 「月刊まんがくらぶ」で大人気連載中の酒好きアラサー女子の呑ん兵衛コメディ4コマ! 新鋭・迂闊デビュー作にして初コミックス!!

たくのみ。(1)

火野遥人 (著)
価格:596円
★★★★* 18件のレビュー

転職のため東京にやってきた天月みちる(20)。 上京した彼女は、女性専用シェアハウスに住むことに! アパレル店員、ウエディングプランナー、女子大生。 仕事も年齢もバラバラな同居人たちだけど、 美味しいお酒と料理があれば、今日もみんなが集まって…!! 話して呑んで、疲れを癒やす“ほっこり暮らし”始まります♪

きんどうが気になっている新刊レビューしてくれる方募集

⇒ 続きを読む

【書評】誰もが浮かれる夏に、つい死にたくなる人へ『寿命を買い取ってもらった。一年につき、一万円で。』

$
0
0

こんにちは、きんどるどうでしょうです。新企画「きんどうが気になってる新刊を代わりに紹介してください(仮)」。1・2巻同時発売されたジャンプコミックス『寿命を買い取ってもらった。一年につき、一万円で。』のレビュー2軒めをいただきました。

毎日を無気力に過ごしていた青年が寿命30年を30万円で売り払い、残された余命3ヶ月で幸せになろうと躍起になるが尽く裏目にでてしまう。空回りし続ける彼が何かに気づいた時残りの寿命は……という感動作。

原作にはたくさんの高評価レビューがついてますので気になる方はあわせて是非 メディアワークス文庫 > 『三日間の幸福


寿命を売る気はありませんか? あなたの寿命は一年いくら? 『寿命を買い取ってもらった。一年につき、一万円で。』

やあどうも、tonkotutarou(@tonkotu0621)と申します。普段は、労働を憎んだり、駅のホームから落ちないようにおびえたり、読みもしない本を買った自慢をするなどして、自分を大きく見せようと必死になったりしています。

「ああ、つまらない人間の、つまらない書評だろうな」思ったあなた、今回おすすめする漫画は、まさにそんな風に斜にかまえる人のための一冊かもしれません。

『寿命を買い取ってもらった。一年につき、一万円で』

半匿名のウェブ小説出身の三秋縋さんの『三日間の幸福』を、バンド「感傷ベクトル」のボーカルであり、漫画家である田口囁一さんがコミカライズした作品です。

じゃあ、実際にどんな話なのか

そんなわけで、実際にあらすじをご紹介していきたいのですが、原作者の三秋縋さんが140字でとても簡潔にまとめてしまっています。

うーん。パーフェクト。小説の背表紙のあらすじや、Amazonの商品概要よりも遥かにわかりやすい。特に”無性に死にたい夏にどうぞ” この一文がすべてかもしれません。誰もが浮かれる夏に、死にたくなるような人間。そういうタイプの人間の同族嫌悪を誘うには、主人公の”クスノキ”はうってつけの存在だからです

ダメな主人公と監視員

幼い頃から自意識だけを肥大させ、ろくに他人と交わろうともせず、そのくせ誰かの描いた小説や音楽を通じて他人を知ったつもりになっている。他人を信じないふりをして、都合よくその存在にすがってしまう。つい目をそらしたくなるくらい、”ダメ”な人間。それがクスノキです

20歳の夏、大学生のクスノキは生活に困窮し、身の回りのものを売ってまわる中で、ある噂を耳にします。「この街に、寿命を買い取ってくれる店が存在する」

荒唐無稽な話に耳を疑いつつも、彼はその店に頼るハメになります。ダメ人間なので。何年か寿命を売ればなんとかなるのではないか。プライドの高いクスノキは自分の価値を高く見積もっていました。多くの自意識過剰な人間の例に漏れず。では、いったいいくらだったのか。それが「一年につき、一万円」というこの漫画のタイトルにもなった金額です

今後どれだけ充実した人生をおくるはずだったか? そういう価値尺度において、彼の人生は「最低買取価格」だったわけですね。

結果、余命3か月だけを残して、30年を30万円で売ったクスノキですが、翌日から彼の生活はさらに大きな変化を見せ始めます。女性監視員の、”ミヤギ”の派遣です。ミヤギ、可愛いですね。

可愛いんですけど、ミヤギの役目はあくまでクスノキの監視。クスノキが自暴自棄になり問題行動を起こした場合、ミヤギが通報し即座に残りの寿命を奪うことになっています。こうして、残りの人生がわずかとなって初めて、彼は他人と共同生活をすることになります。

慣れない共同生活の中で、彼は人生の最後にやりたいことを書き出します。旧友と会う、美味しいものを食べる、遺書を書く……その残り僅かな人生でせめてもの幸せを手に入れようとするクスノキの姿、そして彼に淡々と「起こるはずだった現実」を伝えるミヤギ。

二人の悲しくって救いようがなくって、どこかほっとするような残りの3か月については、ぜひとも本書を手に取って楽しんでください。

さて、この漫画の最大の魅力は、三秋縋さんの原作が好きな方にも手放しでオススメできる非常に緻密なコミカライズである点です。以下、原作者・三秋 縋さんのツイートより。

この『三日間の幸福』という作品は、もともとはウェブ小説でした。 三秋縋さんが「げんふうけい」という名義で発表していた小説を、テーマと主要キャラクターをそのままに文庫本として大きく改稿した作品です。

参考:『三日間の幸福』 http://fafoo.web.fc2.com/other/standbyme.html

文庫版は本当にたくさん加筆されています。僕はウェブ小説版のホールデン・コールフィールドめいた語り口に慣れていたので、ずいぶん驚いたものでした。でも、加筆された箇所のどれもが物語の奥行をより深く、立体的にするものばかりで、三秋さんの作品に対する愛が随所に伝わってくるものだったんですよね。

で、田口囁一さんのコミカライズは、そんな作者の愛や意図をくみ上げて、世界観を丁寧に絵に変換しています。世界観って俗な言い方なんですけど、こういうコミカライズの作業によって損なわれるものやくみ上げられるものって世界観としか言えませんよね。

例えばこの作品の随所にみられる「自動販売機」とか、蒸し暑さがページ越しに感じられるくらいの夏の描写とか。田舎の学生街を連想させる背景には、主要人物以外のキャラクターが取り除かれていて、「無性に死にたくなる夏」の真ん中で、寿命3か月になったクスノキの孤独感が伝わってきます。

小説の文章を追いかけていくなかで、おそらく登場人物はこんな表情をしたのだろう、こんな風にふるまったのであろうというシーンが、違和感なく絵になっています。

僕は読んでいて、ある種の聖地巡礼をしている気持ちになりました。

そういう楽しみ方もあるので、原作が未読の方ならば、ぜひとも『三日間の幸福』と併せて読んでいただきたいですね。コミカライズ版は現在2巻までが発売されています。試しに1巻、ついでに2巻と読んでしまうと、たぶん続きが気になって小説版をポチってしまうはず。

もうまもなく暑い暑い夏がはじまります。無性に死にたい夏に備えて、ぜひポチってみてはいかがでしょうか。

AmazonKindle電子書籍で『寿命を買い取ってもらった。一年につき、一万円で。』をチェック

寿命を買い取ってもらった。一年につき、一万円で。 1

三秋縋(メディアワークス文庫「三日間の幸福」) (著), 田口囁一 (著), E9L・田口囁一 (著)
価格:400円

毎日を無気力に過ごしていた青年クスノキは、ある日寿命を買い取ってくれる不思議な店の噂を耳にする。金に困って寿命の大半を売り払った彼は、余命3か月を「監視員」のミヤギと共に過ごすことになるが…。三秋縋の人気小説「三日間の幸福」を完全コミカライズ。

寿命を買い取ってもらった。一年につき、一万円で。 2

三秋縋(メディアワークス文庫「三日間の幸福」) (著), 田口囁一 (著), E9L・田口囁一 (著)
価格:400円

寿命の大半を売り払ったクスノキは、僅かな余生で幸せを掴もうと躍起になるも、悉くが裏目に出てしまう。そんな中、最後の支えである幼馴染みのヒメノと再会を果たすが…!? コミックスだけの新規描きおろしエピソード「存在の言うまでもない軽さ」を収録。

【続き】akasat_aka_nahaさんのレビュー

注意事項:Kindle本の価格は随時変更されています。また、本サイトでは購入された書籍や内容についての責任は持てません。ご購入の前にAmazon上の価格・内容をよく確認してください。良い価格で良い本を。きんどるどうでしょうでした。

⇒ 続きを読む

【書評】映画やアニメと違いほぼ原作通り。しかし次が待ち遠しい 雲田はるこコミカライズ『舟を編む(上)』

$
0
0

こんにちは、きんどるどうでしょうです。新企画「きんどうが気になってる新刊を代わりに紹介してください(仮)」。『昭和元禄落語心中』雲田はるこによるコミカライズ『舟を編む(上)』のレビューをいただきました。

本作は2012年の本屋大賞にも選ばれた三浦しをんの小説『舟を編む』。そして同タイトルの松田龍平・宮崎あおいらが主演の実写映画、そしてアニメ版に続いたメディアミックス作品ですね。

実写映画・アニメはプライムビデオで見放題。原作の光文社新書は7月27日まで50%ポイント還元セールを実施と、もう全部コンプリートしたまえよ!と素晴らしい状況になっていますね。


映画やアニメと違いほぼ原作通りのコミカライズ

『高い城の男』の紹介記事を書きました、ライターの@shachiです。今回は雲田はるこ『舟を編む(上)』の書評です。

三浦しをんという人の小説は、主点としてのカメラが興味のあるところから興味のあるところへと移り変わっていきそれがまた不思議と合う。呼吸が合うというやつかもしれない。その傾向は「風が強く吹いている」あたりから顕著になっていきこの「舟を編む」でも見受けられる。

今作はその忠実な別メディア作品、漫画版となる。「舟を編む」という作品は別メディア化をよくされている作品としても目立つ作品のひとつだ。



まず映画化をし、ヒットを放つ。主役の「馬締光也」の役を松田龍平が演じ朴訥なるも真っ直ぐなそのキャラをきれいに演じた。その映画もamazon Primeで観られる。 → Amazon『舟を編む

そして、アニメ化。これはOPを岡崎体育の曲を使いその雰囲気と共に好評をもって迎えられた。こちらもamazon Primeで観られる。 → Amazon『舟を編む(アニメ)

小説やアニメに共通したのは、表紙の絵に「元禄落語心中」の雲田はるこを起用したところだ。(小説は単行本は別で、文庫のカバーからとなる)

この漫画版は、満を持しての『雲田はるこ』版となる。もともとの文庫でのイメージから、映画。映画からの文庫のカバーと、イメージがカチッとまとまったところからの漫画なので、違和感なくスムーズに世界に入っていける。そして、この漫画の方では映画やアニメと違い、ほぼ原作通りに話は進む。(映画とアニメだと、少しだけ話が違っているのでその辺りにも注目すると楽しいです)

上巻では、原作で描かれたようなカメラのスイッチが「辞書の作成」という主題においてバトンタッチされるようにきれいに移り変わる。みているほうも違和感なくスムーズに。

そして、荒木から馬締へと渡されたバトンは馬締の人生をまっすぐ一本のゴールへと向かうように導いていく。恋愛をし、問題があり、つまづきそれを周りを巻き込みつつ紐解くようにゆっくりと着実に。それこそ舟を漕いで進むように、それこそ編み物のように失敗したら編み直し、またほどき編んでいくように

読者の視点としては、荒木のときから馬締の視点になると読む人の目線と違ってくる。

馬締はとにかく集中する。のめり込んでいく。そこまで出来る人は少なく、だからこそ辞書編集というのは誰でもは出来ない、というのが見えて行く。

その為にいるのが西岡という、営業能力の高い「語り部」が用意されている。最初西岡という人は馬締とも違い、荒木とも違う。だが、読む人の目線には一番近く、段々と彼から馬締を観るというカタチで定着していく。

この巻では、読者とのやりとりを西岡を通じて馬締をみていく。だが、それが慣れたところで、西岡は辞書編纂室を離れることがきまり……。というところで、上巻は終わります。西岡はどうするのか、馬締はどうやっていくのか。辞書は? と次の巻が待ち遠しくなります。例え、原作や映画などで先を知っていたとしても。

AmazonKindle電子書籍で『舟を編む(上)』

舟を編む(上)

三浦しをん (著), 雲田はるこ (著)
価格:540円
★★★★★ 2件のレビュー

玄武書房・第一営業部に勤める馬締光也は、言葉に対する鋭い感覚を買われ、辞書編集部に迎え入れられる。新しい辞書『大渡海』の完成を目指し、言葉という絆でつながった人々とともに、馬締は辞書の世界へ没頭してゆく――。本屋大賞受賞の大ベストセラー小説、待望のコミカライズ!

光文社文庫50%ポイント還元セール(7月27日まで)

舟を編む (光文社文庫)

舟を編む
価格:648円 50%ポイント還元
★★★★☆ 346件のレビュー

出版社の営業部員・馬締光也(まじめみつや)は、言葉への鋭いセンスを買われ、辞書編集部に引き抜かれた。新しい辞書「大渡海(だいとかい)」の完成に向け、彼と編集部の面々の長い長い旅が始まる。定年間近のベテラン編集者。日本語研究に人生を捧げる老学者。辞書作りに情熱を持ち始める同僚たち。そして馬締がついに出会った運命の女性。不器用な人々の思いが胸を打つ本屋大賞受賞作! 馬締の恋文全文(?)収録!

映画・アニメともにAmazonプライムビデオ見放題

舟を編む 2013

プライムビデオで見放題

出版社・玄武書房に勤める馬締光也(まじめ みつや)は、営業部で変わり者として持て余されていたが、言葉に対する天才的なセンスを見出され、辞書編集部に異動になる。新しい辞書「大渡海(だいとかい)」――見出し語は24万語(……)馬締は彼女に気持ちを伝えるにふさわしい言葉がみつからない。問題が山積みの辞書編集部。果たして「大渡海」は完成するのか?馬締の思いは伝わるのだろうか?

舟を編む 2016

プライムビデオで見放題

舟を編む 2016

きんどうが気になっている新刊レビューしてくれる方募集

⇒ 続きを読む

【本宣】『笹団子』の本をだしたのでAmazonで買える新潟県の美味いものを紹介します

$
0
0

こんにちは、きんどるどうでしょうです。出版関係者・クリエイターご本人から作品紹介をいただく番組宣伝ならぬ【本宣】。今回は新潟県の名産品・特産品を全国に広めるべく活動している新潟名産品商会さんからUnlimited対象の『笹団子ものしり事典』の紹介+アマゾンで買える新潟県の商品を紹介いただきました。

先日ツイートしましたが『福島の農産品・加工品の応援20%OFFクーポン』配布など、最近アマゾンは地域別ストアにかなり力をいれているよう……ですが、そうそう見ないカテゴリーですからなぁ。この機会に新潟県ストア(フェア)をチェックしてみてください。個人的オススメは最後に載せた『かんずり酒盗』が美味そう。以前居酒屋で食べましたがかんずりはいいものです。

新潟県の名産品を知ってもらいたい

はじめまして。新潟名産品商会と申します。新潟県の名産品・特産品を全国に広めるべく個人でPR活動をしております。

この度は、新潟の名産品を紹介する本を出版しましたので、それと合わせてAmazonで購入できる新潟のチョット変わった食べ物をご紹介いたします。本のタイトルは『笹団子ものしり事典』です。

笹団子ものしり事典<期間限定 値下げセール中> 新潟県の名産品

新潟名産品商会 (著)
Unlimited読み放題

【定価】1,250円⇒【期間限定価格】500円(……)新潟県名産品の笹団子の情報がつまった1冊です。 笹団子のルーツやお土産品化した経緯といった笹団子の「過去」。 ちまきと笹団子の違い。 笹団子のゆるキャラや色々な味の笹団子といった「現在」の笹団子の状況。 「過去」と「現在」を軸に本書は構成されています。 笹団子をよく食べて知っている方にも、笹団子を知らない方にも、笹団子の魅力が伝わる1冊です。

笹だんごとは、笹の葉に包まれた緑色のヨモギだんごです。福島の一部と新潟でしか作られていなくて、他の都道府県では見られないチョット変わった食べ物です

ヨモギだんごの中には、小豆あんこがつまっています。団子を笹の葉で包み、その両端を草のヒモで縛っているため、笹だんごは俵のような外見をしています。佐渡島など一部の地域を除き、古くから新潟県の多くの地域で食されている和菓子です。

Amazonで買える新潟のチョット変わった食べ物 

みなさまご存知のとおり、新潟県はお米と日本酒で有名な県です。ですので日本全国でトップクラスの生産量を誇る、新潟のお米と日本酒のブランドを紹介していきます。

……というのはメジャーでありきたりなので、あまり面白くありません。今回は、メジャーではない、Amazonで買えるチョット変わった新潟の食べ物を紹介していきます。

雪国まいたけ 雪国きのこカレー 200g

価格:388+送料円

新潟県はキノコの生産量も全国トップクラスの県です。まいたけ、ぶなしめじ、えりんぎときのこ3種類を贅沢に使ったカレーです。

食べると、キノコのこのこ元気のこにきっとなるでしょう。

【期間限定】亀田製菓 ハッピーターン えだ豆味 43g×6袋

価格:1,280円 在庫僅か

言わずと知れた、みんな大好き魔法の粉。ハッピーターン製造メーカーの亀田製菓は新潟の企業です。

通常の味だけでなく、新潟名産の枝豆とミックスした味が発売されています。食べると、ヤミツキになって中毒にきっとなるはず。

浪花屋製菓 大辛口 柿の種 6袋パック 138g 1ケース(12個入)

価格:2,438+送料円

柿の種を初めて作ったメーカー、浪花屋製菓が販売しています。 どれだけ辛いのか?それは食べてみてのお楽しみです。酒のおつまみにどうぞ。

辛さに物足りないと感じた辛党の方は、ワサビなどをつけて食べてみてもいいかも。

たっぷり豆もち 220g

越後製菓
価格:437円
★★★★☆ 19件のレビュー

豆もちの画像を初めて見たお前は、次にこれを言う。(JOJO)

「これカビが生えてるんじゃないの!?」

ところがどっこい・・・カビじゃありません! 豆です・・・!これが新潟の豆もちなんです! 豆の断面がカビのように見えますが、カビではないのでご安心ください。

江戸時代から続く老舗の笹だんご10個セット つぶあん5個・こしあん5個 保存料不使用で急速冷凍した老舗の笹だんご 市川屋

価格:2,780+送料円

新潟のチョット変わった食べ物の中でも、メジャーなお米や日本酒に負けない人気や販売力があるのが笹だんごです。

新潟アンテナショップの東京表参道「新潟館ネスパス」と大阪梅田「じょんのびにいがた」でそれぞれ物販1位を記録しているのが笹だんごです。

また、「ササダンゴン」や「笹団五郎」といった笹だんごをモチーフにしたゆるキャラやマスコットキャラが登場しています。笹だんごは、新潟県の数ある名産品の中でも人気の高い名産品です。
 

日本で初めて笹だんごを本格的に解説した本

弊著『笹団子ものしり事典』で、この人気の高い笹だんごを解説しています。お米やお酒を解説した本は数あれど、笹だんごについて本格的に解説している本は今のところ弊著のみです。

『笹団子ものしり事典』は、「笹だんごの歴史」や「笹だんごの現在の状況」、「ちまきと笹だんごの比較」の3本柱となっています。

笹だんごのルーツは戦国大名の上杉謙信?
笹だんごはレーション(軍事用携帯食)のはしりだった?
笹だんごがお土産品となったのは戦後からで、あの有名な総理大臣も食べた?
水戸黄門で有名な徳川光圀が笹だんごに似た和菓子を作った?
笹だんごをモチーフにしたキャラクターがたくさんいる?

などなど笹だんごの情報や魅力がつまった本です。食やお菓子、歴史や戦国時代に興味のある方にオススメの1冊です。また、新潟県民だけでなく、その他の都道府県の方も楽しめます。

新潟県民の方には「笹だんごにこんな歴史があったのか」、その他の都道府県の方には「新潟には、こんなに人気があって、歴史が古いお菓子があったんだ」と笹だんごの理解を深めて頂ければ、新潟県人の筆者として幸いです。

ぜひご一読ください。

AmazonKindle電子書籍で『笹団子ものしり事典』

笹団子ものしり事典<期間限定 値下げセール中> 新潟県の名産品

新潟名産品商会 (著)
Unlimited読み放題

【定価】1,250円⇒【期間限定価格】500円(……)新潟県名産品の笹団子の情報がつまった1冊です。 笹団子のルーツやお土産品化した経緯といった笹団子の「過去」。 ちまきと笹団子の違い。 笹団子のゆるキャラや色々な味の笹団子といった「現在」の笹団子の状況。 「過去」と「現在」を軸に本書は構成されています。 笹団子をよく食べて知っている方にも、笹団子を知らない方にも、笹団子の魅力が伝わる1冊です。

そのほか、きんどうが気になる新潟県フェアアイテム

かんずり酒盗 80g

価格:480+送料円 58%OFF
★★★★★ 2件のレビュー

八海山 麹だけでつくったあまさけ 825g x 3本

価格:2,700+送料円
★★★*☆ 20件のレビュー

保存缶 醤油せんべい

越後製菓
価格:535円
★★★★☆ 36件のレビュー

味噌手作りセット(辛口版)4kg用 樽付き(大豆1.17kg,米麹1.03kg,塩510g)

価格:2,624+送料円

注意事項:Kindle本の価格は随時変更されています。また、本サイトでは購入された書籍や内容についての責任は持てません。ご購入の前にAmazon上の価格・内容をよく確認してください。良い価格で良い本を。きんどるどうでしょうでした。

⇒ 続きを読む

【書評】とうに”女の子”を終えていたと思っていた私に響いた 西原理恵子「女の子が生きていくときに、覚えていてほしいこと」*3人目にアップデート

$
0
0

こんにちは、きんどるどうでしょうです。新企画「きんどうが気になってる新刊を代わりに紹介してください(仮)」の3冊目。

『毎日かあさん』や『ダーリンは』シリーズなどの著書を持つ漫画家・西原理恵子さんがしくじり先生としての学びを娘に語った『女の子が生きていくときに、覚えていてほしいこと』のレビュー、お二人目の記事をいただきました。

"人生という航路に絶対安全はないからこそ、今、伝えておきたい。母から娘へ―厳しくもハートフルな生き方指南" と、女子向けなイメージをもっていましたが、さすがサイバラ先生。そのタフな生き様は男女問わず学びがあるようです。


女の子が生きていくときに、覚えていてほしいこと

1歳4歳のマッスル系女児二人の母@maiaxxxです。二人の幼女の行く末を案じて選んだ「女の子が生きていくときに、覚えていてほしいこと」を紹介をさせて下さい。作者についてはご存知の方が多いと思いますので割愛します。

読んで読み直して、知りたくなかったな、でも知らなきゃいけなかったんだな、が強く残った感想です。“女の子”が生きていくというより、女だろうと何だろうと、自力で生きていくための本。“女の子”というと守られるイメージがありますが、守られないための本でした。

ちゃんと稼げるようにならなくちゃ自立できない

世の中が「女性活躍推進」というものを掲げて女性をなんとか働かせようとし、ママ起業や女性管理職というワードも目にする機会が増えました。

女性は家庭に入るのが当たり前、外に出るなんておこがましいという時代ではなくなっています。20年、30年前よりずっと女性が前面に出やすくなっているはず。しかしその一方で、出たものの先のモデルがなく、どう動いていいか(動かしていいか)分からない、作り出さなきゃいけない時代でもあります。

チャンスに出会えたのに遠慮してしまうのも、かつて“出るのはおこがましい“と植え付けられたものからくるのではないかと感じます。たとえば家事の時間をやりくりして作ったものをフリマで売り出す。喜んで手に取ってもらえた。でもそこで「趣味で作ったものだから」と材料費だけもらって譲ってしまう。私もこういうことしてましたし。

ところがそれは、自分で自立を拒んだことと同じなんですよね。サイバラ氏にはっきりと『「好きなことだから、お金はもらわなくていい」は間違いです。好きなことで生きていきたいなら、それでちゃんと稼げるようにならなくちゃ』と本文で言われましたから。

サイバラ氏といえば漫画家として女ながらに腕一本で歩いてきたワーキングマザーの先駆者です。『けもの道だって、道』と言い切るくらい、がむしゃらに自分の力で稼ぎ生きてきた先輩かあさんです。だからこそ“女の子“が男に頼らず自分で生きるために、本の中でサイバラ氏自身の極貧時代の話をしたり、“男捨離“に時間がかかった話をしたりして、人生の勝ち取り方を示せるんだと思います

女の子の育児ではなく、私へのメッセージばかりでした

実は「女の子が生きていくときに、覚えていてほしいこと」というタイトルなので女の子育児の指標探しをしようとして読みました。

「あのサイバラ氏が"女の子"になにか重要そうなメッセージを出している。ウチの幼女たちにアレンジして伝承できるのではないか。」できそうにありません。正確に言えば、いずれはお話してあげなくてはならないけれどさすがに幼児に言うは早い。それより、とうに"女の子"を終えていたと思っていた私へのメッセージばかりでした

まるで、読み始める直前までの私に「自分の娘には、これからの自分の人生で伝えなさいよ」と言われた気持ち。私自身の人生の不出来を、子供のせいにしたくない。そんな決意をさらに強くしました。ちなみに夫には、高須先生のような人になるよう、それとなく伝えます

AmazonKindleで『女の子が生きていくときに、覚えていてほしいこと』をチェック

女の子が生きていくときに、覚えていてほしいこと 【電子特典付き】

西原 理恵子 (著)
価格:1,069円

娘が反旗を翻し、独立戦争勃発中。巣立ちを目前に、しくじり先生サイバラから愛娘へ。どうしてもこれだけは語り継ぎたい母の教え。【電子書籍版限定、西原理恵子直筆イラストを収録!】

Next|2人目のレビュー @sharaku_johnny

⇒ 続きを読む

【書評】頼りになります 一級建築士・宅地建物取引主任者・魔王『ドラゴン、家を買う。』第1巻

$
0
0

こんにちは、きんどるどうでしょうです。きんどうが気になってる新刊を代わりに紹介してくださいというゲスト書評企画。住まい探しファンタジー 絢薔子×多貫カヲ『ドラゴン、家を買う。』第1巻のレビューをいただきました。

こちらはマッグガーデンのオンラインコミックサイトで連載中の作品ですね。現在1・2話+1ヶ月限定で連載前の読み切りが公開されています。マグコミ

家探しといえば『プリンセスメゾン』『吉祥寺だけが住みたい街ですか』と続けてドラマ化されてますが、まさか来てるんですかね、家探しマンガブーム


見た目は屈強、中身はひ弱。勘当ドラゴンが家探し 絢薔子、多貫カヲ「ドラゴン、家を買う。」

こんにちは。前回雲田はるこさんの「バラの森にいた頃」の書評を書かせていただきました@soranoirohaao1です。今回もとても気になった漫画「ドラゴン、家を買う。」の書評を書かせていただきます。

なぜ気になったのかというと・・・。

つかめ、夢のマイホーム! 貧弱ドラゴンの住まい探し×ファンタジー

このキャッチコピーにつきます(笑)世界観はファンタジーなのに、テーマが家探しというリアリティさはかなり親近感がわくのではないでしょうか。

「ドラゴン、家を買う」はマンガ無料配信サイトMAGCOMIで連載中のウェブ漫画。原作が多貫カヲさん、作画が絢薔子さん。どちらの方も情報がなかったので、たぶん初コミック化だと思われます(不確かですみません) → きんどう注:たぶん初単行本? 作者ブログ

まず最初に、ドラゴンと聞いてどんなイメージを持たれますか? ドラゴンを描い作品はたくさんありますが、どれも「魔王の城(もしくはそれに匹敵するものを)守る門番的な~」とか「破壊の王者」とか「一夜にして街を焼き尽くす」とか……。とにかく狂暴で残忍で、それはそれはでかくて強い、といった感じではないでしょうか?

ところが本書の主人公であるドラゴン族のレティ君は、本人が「生まれる種族を間違えた」と思うくらいの弱くて臆病でダメダメなドラゴンなのであります。何だかその設定からもうおもしろい予感。

物語はレティ君がお父さんに勘当されるところから始まります。なぜ勘当されたかというと……レティ君、あまりにも使えない、仕事ができないからなんです。その日もハンターに取られてはいけない卵を転寝中に取られちゃうしで、お父さんの堪忍袋の緒が遂に切れちゃったという感じです。ああ、今までどんな面白……いやダメなエピソードがあるのやら。

お父さんとしては一人でも強く生きていけるようになってくれという期待を込めて突き放すのですが、とにかく貧弱なレティ君は「一人でどうやって安心安全に暮らせるか」と考えます。『一人で静かにひっそりと誰にも邪魔されることない身を隠せる巣……そうだ!家を買おう!』となるわけです。

ここまで読んでくださっている方ならもうお気づきかと思いますが、レティ君、とってもステータスが弱い。「ちから 3、すばやさ 0.3、ぼうぎょ 8」。「こううん」に至ってはマイナス7という具合。そして飛べない、泳げない。早速家探しがスタートするのですが、速攻ドワーフに捕らえられるというそれはもう前途多難を思わせるダメスタートっぷり。可哀そうすぎて逆に胸キュンですよ。

これを読んでくださっている方の中にも家を購入された経験がある方、賃貸住宅探しで不動産屋をはしごしたという方も多いはず。今まさに探している途中、という方もいるのでは?

私個人、住居はとてもとても大切な安住の場所。なので選ぶにしても買うにしても絶対妥協はしたくありません。ですが世知辛い諸々の事情でたいては最終的には何を削るか、何に重点を置くかという難しい選択に迫られます。

この漫画でもレティ君は物件探しの中で自分の希望とオススメ物件のあまりの相違に激しく落ち込みます。「自分の合う家はないんじゃないか……」と。そういった、リアリティのある悩みなんかは、種族は違えど同じだな~と自分を投影してみたりできるのです。ドラゴンだってそこらの岩山で寝ていればいいのではない!!と。

そして、家探しの途中で出会ったのが建築士ディアリア。名刺には「一級建築士・宅地建物取引主任者・魔王」という肩書が。頼れますよね。……ン? 魔王? そう、ここら辺はレティ君の勘違いでスルーされるのですが、私の浅い読みでは、今後何かキーポイントな感じがします。

ドワーフや勇者やその他諸々のモブ達の、レティ君を目の当たりにした時の反応がまた興味深かったです。ドラゴンは襲いかかってきて当たり前、倒すべきものとして接してきて、そう双方の温度差と見た目からくる偏見が切なくも怖かったです。家探し漫画なのになかなか奥が深い。

私はモンスターをハントすることも、ドラゴンをクエストすることもないのですが、聞きかじる淡~い知識の中で「これってあれのこと?」みたいな言葉や行動がちりばめられていて楽しいです。ゲームをやる人はもっと楽しめるのでは。いいなぁ。

とはいえ、「魔法」「ダンジョン」「冒険」「ファンタジー」という言葉が大好きな私にはたまらない作品でした。ハーピーは期待通りの巨乳美女軍団だし、家具ショールームの三姉妹は怪しい老魔女だし。定番は定番のまま、決して裏切られることはありません。

さてさて、ディアリアと一緒に「100年掛かって探す覚悟」をもって始めたい家探し。まだまだいろんな奇妙奇天烈な物件が出てきそうだし、ディアリアの美しさもレティ君のダメっぷりも楽しめそうです。たっぷりの母性と少しのSっ気の目で見守っていきませんか?

AmazonKindle電子書籍で『ドラゴン、家を買う。』

ドラゴン、家を買う。 1

絢薔子 (著), 多貫カヲ (その他)
価格:432円

臆病者すぎて一族から勘当された、か弱きドラゴンの子・レティ。勇敢さとは無縁の彼は、安心安全な“家”があれば生きていけると考える。エルフやドワーフ、ゴブリンなど多様な種族が生きる広大な世界で、夢のマイホーム計画は成就するのだろうか―

きんどうが気になっている新刊レビューしてくれる方募集

⇒ 続きを読む

【書評】マンガ家・木村いこが不安障害から回復を目指すコミックエッセイ『夜さんぽ』

$
0
0

こんにちは、きんどるどうでしょうです。きんどうが気になってる新刊を代わりに紹介してくださいというゲスト書評企画。マンガ家・木村いこが不安障害から回復を目指すコミックエッセイ『夜さんぽ』のレビューをいただきました。

木村いこさんは『たまごかけごはん』『いこまん』の2冊を本作『夜さんぽ』とおなじ徳間書店RYUCOMICから発売してますね。なぜか今20%ポイント還元が付与されています……。発売記念かな? わたしは作者さんと表紙、タイトルでホンワカしたものを想像していたのですが、内容紹介を読むと『え、不安障害……?』と驚きました。

今回のレビュアーは医師の方で『厚生労働省 みんなのメンタルヘルス』を基本に書かれております。日本人の10人に1人がなるかもしれない不安障害、いま苦しんでいる方も、いつかかかるかもしれないわたしも……本作が解決策というわけではないですが、届くべきひとに届いてほしいですね。


マンガ家・木村いこが不安障害から回復を目指すコミックエッセイ

こんにちは!前回『読書で離婚を考えた。』の書評を書かせていただきましたブログ勤務医開業つれづれ日記・3の医師、中間管理職@med2008です。またお会いできましたね。

今回紹介させていだたきますのは、木村いこ先生の『夜さんぽ』です。この本は「不安障害」について描かれた漫画作品です。なんとなくいい本だと感じる方が多いと思いますが、結構深い本です。実は多くの人が経験する「不安障害」。日常でどのように困難を感じながら過ごしているのか、やわらかくあたたかい視点で描かれています。

不安と一緒に『夜さんぽ』

木村いこ先生は32歳女性。イラストレーターで、漫画では「たまごかけごはん」や「いこまん」を出版されています。児童書では「ねこ天使とおかしの国に行こう!」など多数の挿絵を描かれていて、さらには小学校の国語の教科書の挿絵も描かれています。

しかし木村いこ先生は「不安障害」にかかってしまいます。「不安障害」治療の一環として夜に散歩するというのが今回の本です

「不安障害」とは

「不安障害」はその名前の通りに不安に感じてしまうのがおもな症状です。不安になるはっきりした理由がなかったり、理由があっても必要以上に強い不安に繰り返し襲われたりする病気です。発症しやすい年齢は10代後半と30代です。

日本ではおよそ10人に1人が一生のうちになると言われています。アメリカでは不安障害は10人中3人とかなり多くの人が経験すると言われています。実は本当に多くの人が経験する病気なのです

「不安障害」について知識があるとこの本の良さが本当にわかるんじゃないかと思います。ただ本の中にははっきりと病気について書かれていませんし、原因も「自律神経をこわしてから」としか描かれていません。今回の書評はあくまで作品の内容から読み取ったことで、私の想像が入っています。実際に木村いこ先生がそうだ、ということではありませんのでご理解ください。

木村いこ先生の症状は動悸やめまい、予期不安、不眠、神経過敏などのようです。同じように他の「不安障害」や「パニック障害」患者さんも突然の激しい動悸、胸苦しさ、息苦しさ、めまいなどの強い不安に襲われます。患者さんは心臓発作ではないか、死んでしまうのではないかなどと感じるような強い症状を訴えて病院を受診します。でも病院に着いたころには症状がおさまっていて、検査ではとくに異常はみられません。そのまま帰宅しますが、また発作を繰り返すことが多いのです。

『夜さんぽ』の裏側

「夜さんぽ」は夜に気ままに歩きながら少しずつ自分の世界を見つけていくお話です。木村いこ先生は外に出ることができなくなって、体重も増えてしまったので「夜さんぽ」をすることにしました。医学的にも適度な運動はとても大事です。引きこもりがちな「不安障害」において体力向上だけでなく、エンドルフィンやBDNFという脳内物質の産生をうながします。それにより症状の改善に役立つといわれています。

各話にそって症状と治療の意味についてごく簡単に書いてみました。できれば最初は知識なしで作品を読んでみてください。そして実はこういうステップが隠れているんですよ、ということがわかってからもう一度読んでみてください。きっとこの作品の隠れた良さに気づくと思います。

第1話 夜さんぽ

第一話はイントロです。経過の説明が簡単に描かれています。夜あるくと街灯のLED光に過敏な症状が出ています。これは神経過敏の症状の一つです。光過敏症状の他に音刺激や匂いがダメな方もいらっしゃいます。

あと夜に二人で歩くということも大切です。一人では「不安症状」が出てしまう場面でも信頼できる人がそばにいると症状が出づらいので一緒に歩いてもらっているんですね。曝露療法といって少しずつ段階を経て出来るようになっていく、という治療法です。

第2話 ペットボトル
理由がはっきりしない不安症状が襲ってきます。ペットボトルが置いてあるだけなのに漠然とした不安や敵意を感じてしまいます。先生をフォローする彼氏のトリさんがえらいです。

第6話 深黒の水

「不安障害」の方はアルコールやカフェイン、タバコなどに依存する場合があります。第6話にあるようにカフェインは過剰に摂取すると不安を増強させてしまう場合があります。ディカフェやカフェインレスというコーヒーも最近多く出てきていますので、上手に付き合うといいですね。

第11話 花火

最終第11話が花火の話です。静かな夜にしか散歩できなかったのに、いまでは夜に大勢の人がいても大丈夫。花火の音も平気になりました。やはり音刺激にも過敏になっていたのでしょう。第一話であれほどまぶしかった街灯のLEDの光も気にならなくなってきているみたいです。

「不安障害」の関連情報

本記事は「厚生労働省 みんなのメンタルヘルス」を基本に書いております。「不安障害」については色々な情報がありますが、きちんとした情報、専門の医師による診断が一番大事です。

「精神障害の診断と統計マニュアルDSM-5」でのV.不安症群・不安障害群、主に社交不安障害や全般性不安障害が該当すると思います。WHOの「ICD-10」ではF40-F48、神経症性障害,ストレス関連障害および身体表現性障害がそれに当たると思います。ネットでは“社会“不安障害と書かれているものもいっぱいありますが、2014年の日本語版DSM-5からは”社交“不安障害に変わっています。注意してください。

参考サイト:
厚生労働省 みんなのメンタルヘルス パニック障害・不安障害
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/detail_panic.html

『夜さんぽ』は発症から1年間のお話です。少しずつ以前の感覚を取り戻してきている木村いこ先生とそれをあたたかく見守る彼氏のトリさん。小さなことが少しずつ積み重なっていく夜のお話です。

作者は決して「不安障害」を強調したいわけではないと思います。でも「不安障害」を理解すると、もっともっと多くの人の心に届く作品だと思っています。現代の多くの人が感じる言いようのない不安。まだまだ広く知られていませんが「不安障害」は身近な病気です。気になった人はぜひ手に取ってみてください。素晴らしい作品でした。

AmazonKindle電子書籍で『夜さんぽ』

夜さんぽ【電子限定特典ペーパー付き】

木村いこ (著)
価格:620円

【電子限定特典ペーパー付き】いろいろ不運が続いて不安障害になってしまった、イラストレーターでマンガ家の【いこまん】。症状改善のため、無二の友でもある同居中の彼氏【トリさん】と「夜さんぽ」を始めてみた……。不安だからこそ出会える「夜」がある。不安だからこそ見つかる「夜」がある。そんな「夜」を探しに散歩する、どきどき、わくわく、しみじみ…と心に届く珠玉のエッセイコミック。


¥ 620

きんどうが気になっている新刊レビューしてくれる方募集

⇒ 続きを読む

【書評】今だからこそかける『野ブタ』の作者の新境地 白岩玄『世界のすべてのさよなら』

$
0
0

こんにちは、きんどるどうでしょうです。きんどうが気になってる新刊を代わりに紹介してくださいというゲスト書評企画。ドラマ化された『野ブタ。をプロデュース』の作者・白岩玄さんの新境地という『世界のすべてのさよなら』のレビューをいただきました。

本作は"30歳になった同級生四人の物語"という失われた時間と関係性を描くオムニバス形式の小説です。『野ブタ』と聞くと青春のイメージが強いですが、主人公は30歳とこれは確かに新境地という気がしますね。

レビュアーさんは"この本のテーマは『成長』"とおっしゃっていますが、さて少年から青年、そして中年にさしかかる時にどう成長が描かれるんでしょうか。


今だからこそかける『野ブタ』の作者の新境地『世界のすべてのさよなら』

初めまして、白岩玄さん著の「世界のすべてのさよなら」の書評を担当させていただきました片倉九時@katakura_czです。よろしくお願いします。

まず最初に白岩玄さんは『野ブタ。をプロデュース』で文藝賞受賞作品であり、芥川賞候補にもなりドラマ化もしました。ドラマの際には亀梨と山Pのユニット、『修二と彰』を組み『青春アミーゴ』でミリオンセラーを出しました。懐かしいですね。地元じゃ負け知らずですね。

さて、この本の帯には『野ブタ。をプロデュース』の著者、新境地。とかいてあります。まず新境地とはどういうことか。『境地』を新明解第五版国語辞典で引くと①環境②何かを経験した結果到達した、心の状態③その人独自の世界観に基づいたやり方。とある。では何が新境地なのか?この場合③になるであろう。

『野ブタ』ではいじめから信太をプロデュースしていじめを無くすという目的があった。彼の著書『ヒーロー』ではいじめを大仏のお面をかぶってショーをしていじめを無くすという彼独自の奇抜な発想があった。それが今回はなくなっている。もし『野ブタをプロデュース』と同じようなものを期待している読者がいたらがっかりしてしまうかもしれない。

だが、新しい境地に達した白岩玄さんの著書と宣伝されたものを読んでみたいと思わないだろうか?一人の作家が一つの殻を破った姿を読んでみたいと思わないだろうか?

「世界のすべてのさよなら」物語概要

「世界のすべてのさよなら」は4人の美大出身者が社会人になってからの生活をオムニバス形式で書かれている。

広告代理店で働き最近結婚した悠。
年下の恋人がいる翠。
画家としての才がある竜平。
広告代理店から最近職を変えた瑛一。

悠と瑛一の仲がよく部屋を二人で借りてそこにたまに4人で集まったり個別に会ったりする。そんな4人の物語だ。登場人物の悠と瑛一は広告代理店で働いているのは作者がそちらの方にいた経験を生かしているからだろう。

白岩玄さんの既刊『R30欲望のスイッチ』のあとがきに、

ぼくは完全に小説畑の人間かというとそうでもなくて、二十歳の頃は専門学校で広告デザインを学んでいた。おまけに宣伝会議が主催しているコピーライター養成所にも通ったことがある。

とある。白岩玄さん自身の広告にかける思いは強く、広告代理店で働く悠のセリフに、

広告ってさ、人と人ををつなぐものだと思うんだ。いい広告を作れば、消費者と企業を結び付けることができるし、そこに新しい関係性を生むことがだってできる。広告は邪魔なものとして嫌厭されることもあるけれどさ、CMやポスターが記憶に残って商品や企業を身近に感じることができたなら、それはすごく価値のあることだと思うんだよ。だってそのとき湧いてくる、何かに親しみを感じる気持ちは、決して人を孤独にしないポジティブな感情だからな

この広告に対しての熱意は著者自身のものでもあるだろう。そんな広告代理店で働く中での楽しみと苦悩も「世界のすべてのさよなら」には描かれている

年下の恋人がいる翠は女性ならではの問題を抱えている。それは同じく『R30欲望のスイッチ』にある『女性としての自分の賞味期限』の問題だ。男性のアイドルは年をとっても活躍し続けるが、女性のアイドルはいつか卒業していく。そして出産という男性にはないタイムリミットもある

しかし、大人になったからこそ普段の生活の中から学生のようにただ上に目指すだけではなく、じっくりと自分を見つめなおしていくことができるのだろう。作中で婚活をずっとしていた女友達がいきなり「陶芸家になる!」と言い出す場面がある。それはとある映画を観て自分にとって本当に大事なのは何だろうと考えた結果だからだ。

その映画はゲイが主人公で自分の恋が砕けたときにこんなシーンがある。

『彼は洗面所の鏡の前に立って自分に問いかける。What do you want? 何が欲しい?』

そのシーンを見て、大人になった彼女の友人は余裕をもって自分を見つめなおし、陶芸家になると決めたのだ。それは『野ブタ』や『ヒーロー』の頃には出来なかった事だ。 画家の才があった竜平には両親がいなかった。だがいなかったからこそ世界との溝ができ、それが彼の才能の一部になっていた。

作者の伝えたいこと

私はこの本のテーマは『成長』だと思っている。それはこの本の中の人物の成長という事だけでなく、昔「野ブタ。をプロデュース」を読んだ読者。そして作者の事でもある。「野ブタ」の初出は『文藝』の2004年の冬。「世界のすべて」は2017年6月。実に13年の歳月がたっている。この本は著者と読者との再会の場でもある。

題名の「世界のすべてのさよなら」にもそれが表れていると思う。「さよなら」という別れはある意味新しい出発という意味も兼ねていると思うからだ。『野ブタ』の頃のように突っ走った文章はもう書けないかもしれない。でもだからこそ今歳を取った私たちに届く文章が書けるようになったのだ。

ありふれた日常を書けるようになった白岩玄の新境地。「世界のすべてのさよなら」一読の価値あると思います。

最後に

ここまで書くと野ブタや白岩玄さんの著作を読んでない人とは関係なさそうな感じですが、そうではありません。それは題名に「世界の」と書かれているからです。つまりこの物語で起きる「さよなら」は世界=普遍的なものであり、これからのあなたの人生に「さよなら」が起きる可能性があり、もしくは既に経験した「さよなら」があるならば、あなたの心に響くものがあると思います。

さよならは人生の節々で起きます。そんな時、この本が近くにあれば、新しい出発の力になると思われます。

AmazonKindle電子書籍で『世界のすべてのさよなら』

世界のすべてのさよなら (幻冬舎単行本)

白岩玄 (著)
価格:1,123円

人生は痛みによってそれらしくなっていくーー 別れと後悔の先のストーリー。 『野ブタ。をプロデュース』の著者、新境地。 30歳になった同級生四人の物語。 会社員としてまっとうに人生を切り拓こうとする悠。ダメ男に振り回されてばかりの翠。 画家としての道を黙々と突き進む竜平。 体を壊して人生の休み時間中の瑛一。 悠の結婚をきっかけに、それぞれに変化が訪れて……。 失われた時間と関係性を抱きしめながら、今日の次に明日が続く。

きんどうが気になっている新刊レビューしてくれる方募集

⇒ 続きを読む

【書評】『谷川史子 告白物語おおむね全部 30th anniversary』

$
0
0

こんにちは、きんどるどうでしょうです。新企画「きんどうが気になってる新刊を代わりに紹介してください(仮)」。谷川史子のコミックエッセイ?というあとがきまとめ本『谷川史子 告白物語おおむね全部 30th anniversary』のレビューをいただきました。

谷川史子さんは現在も『はじめてのひと』を連載、最近では『おひとり様物語』『清々と』などの人気先もあるベテランマンガ家さんですね。その谷川作品の名物という『30年分の巻末おまけまんが「告白物語」』を1冊にまとめたというお祭り本が本作になります。

19歳のデビューからどんどん大人に、そしてベテランへと成長する姿はファンならずとも感じるところがあるのではないでしょうか。一読者としても楽しむもよし『わぁ、漫画のあとがきどうしよう……』というクリエイターさんには力強い参考書になる……かもしれませんね。


マンガ家エッセイとしても楽しめるこれは最高のファンブック

折鷹(@Oritaka365)です。初回のスーパーカブに続き、二回目の書評となります。

さて、書評というのもなかなか難しいものです。短い文章でできるだけたくさんの人に面白いと思ってもらわなきゃいけない。個人的に面白いと思っていても人によって好みや向き不向きがあるし、また本にも書評向けな本とそうでない本もあったりするわけです。今回はわりとそっち方面の本でした。つまり、読む人を選ぶ本。それが「谷川史子 告白物語(おおむね)全部」です。

表紙にデカデカと書かれた「30th」の文字でわかるように、かつてりぼんを中心に活躍され、現在も第一線で活躍中のマンガ家「谷川史子」先生のデビュー30周年を記念して発行されました。内容は今までの単行本の最後に掲載されていたあとがき的なエッセイ「告白物語」をまとめ、少しの加筆とゲストからもらったメッセージを掲載しています。まあ、いわば「マンガ家:谷川史子」のファンブックです。

こういった本は熱いファン以外は買わないと思いますが、熱いファンなら今までの単行本はほとんど読んでいるはずであり、意地悪な言い方をしてしまえば「重複買い」を求めている本とも言えるかもしれません。

ところが、これがなかなか面白いのです。

あとがきは好きですか?

日常のちょっとしたことをマンガ家が書くと、なぜこうも魅力的に見えるのでしょうか。

私はマンガ家のエッセイが好きです。よく白泉社コミックスにはページ左側に1/4スペースという空白があり、作品の背景やマンガ家の近況、小さなカットなどで埋められていました。私はそこを読むのが大好きで、マンガ家の生活や人物を垣間見た気になって喜んでいたものです。それがコミックスの最後にあとがきが書かれていたりすると大喜びで、本編の作品群より楽しめたりすることがあるほどです。

この本ではそういったあとがきが33冊分集めてあるわけで、それが作者の30年間の成長記録の側面もあるともなれば、マンガ家エッセイが好きな私が楽しめない筈はありません

内容はざっくり4部に分かれており、デビューの1986年から2000年、2000~2006年、2006年~2017年の少女系、その他系と、時代によって活躍の場が変わっていく様子が描かれています。

Caption:谷川先生の初々しい様子(当時)

個人的に好きなのは、やはり第1部です。まだ19歳だった谷川先生が七転八倒しつつ、時には担当に恫喝されながら(時代ですね)、必死に作品を作っているのが赤裸々に描かれています。それが単行本2冊目3冊目(告白物語2話3話)となってくると日々の生活が主になっていき、定番の画材の話になったり怪談になったりと(まあそれも日々ではあるのですが)、内容も一環していない、良く言えばバラエティに富んだ内容となっております。

やがて単行本を重ねるにつれて内容がこなれていき、ちゃんとした「読み物」なっていくのが実感できます。まるで友人のアルバムを見ているかのようです。

また、合間に合間にカットや4コマで描かれる日常が良い。

Caption:マンガ家の魅惑的な日常

谷川先生はデビュー当時から空間を描くのが本当に上手く、カットなどの小作品ではその空間感覚が存分に活かされています。「乾燥機が壊れた」だけでくすっと笑わせられるカットを書ける作家はそうそういないでしょう。

そしてクライマックス。ザギン(銀座)の占い師の話。

Caption:凄腕の占い師ヤバイ

当時単行本で読んだのを懐かしく思い出しました。腹をかかえて笑いすぎて数分動けなくなったのです。この頃から酒ネタがどんどん増えていきます。先生が大人の女性に成長しているのです

しかし泥酔して玄関で寝てしまうのはちょっと大人になりすぎている気もします。まあそういう自分をネタとしてさらけ出してしまうのがエッセイの面白い所でしょう。相方扱い(仲良し)の長谷川潤先生、お疲れさまですとしか言えません……。

Caption:こんなお遊びもあとがきならでは

マンガ家の華麗(?)なる生活

第二部の2000~2006年になると、りぼんからちょっと大人向けの雑誌「Cookie」へ活躍の場を徐々に移していきます。マンガ家としては新しい物に挑戦し始めた時期で、エッセイでも雰囲気が変わっていくのが見て取れます。

作品の打ち合わせ話は定番ですが、生活で女子高生に親切を受けた話、脳ドックの話、泥棒に入られるのを心配する話など、何を題材にしても面白く描けるというのは、まさに油が乗りきったマンガ家という印象が強く出ています。

中でも、幾夜にも渡る徹夜の末に幻覚を見てアシさんにドン引きされる話などは、原稿が遅いといわれる谷川先生の見たくない日常が見られてタイヘンオモシロカッタデス。(後日談あり)

Caption:あるあ……ねーよ

そして第3、4部の2006年~2017年。活躍の場は大人向けの「コーラス」を始めとして、「ココハナ」や「Young King アワーズ(少年向け)」など、さまざまな雑誌に向けて作品を発表していきます。もちろんエッセイも、ただ単にマンションから閉め出された話、服で突き指した話、うどんの話、ライブに間に合わなかった話など、もう何を描かせても大丈夫という安心感。その中で垣間見られる、「ちいさな出来事こそが読者の心を動かす」という感覚。これを身体で知っているからこそ、「おせんべいがおいしい」を楽しく面白く見せることができるのでしょう。

Caption:この凶悪なまでの可愛さよ…

見えないものを描く人、描いてない絵が見える人

最初に書きましたが、この本は読む人を選びます。このエッセイは既に谷川史子の世界を楽しんだ感覚を持って読むのが、最も楽しめる内容だからです。そういう意味でのファンブックですので、谷川作品を何作か読んでいる人ならかなり楽しめるのではないかと思います。もちろん、私のようなマンガエッセイ好きや、ましてや谷川先生のファンなら掛け値無しでおすすめでしょう。

告白物語初回の、誰も居ない座布団の絵。これに谷川先生が三つ指ついているのが見える人、それがこの本を楽しめる人の証明となるのかもしれません

AmazonKindle電子書籍で『谷川史子 告白物語おおむね全部 30th anniversary』

谷川史子 告白物語おおむね全部 30th anniversary

谷川史子 (著)
価格:720円
★★★★* 11件のレビュー

『こりゃひどい』(谷川史子・談) 谷川本名物!? 30年分の巻末おまけまんが「告白物語」が、1冊の本になりました。 描きおろしや単行本初収録作品も盛りだくさん! 単行本特典ペーパー、レアな1ページエッセイなどもおおむね全部のってます!

きんどうが気になっている新刊レビューしてくれる方募集

⇒ 続きを読む

【書評】カドカワ会長・角川歴彦が語るメディアの限界「躍進するコンテンツ、淘汰されるメディア メディア大再編」

$
0
0

こんにちは、きんどるどうでしょうです。きんどうが気になってる新刊を代わりに紹介してくださいというゲスト書評企画。今回はカドカワグループ会長であり、いまなお日本を牽引する角川歴彦最新作「躍進するコンテンツ、淘汰されるメディア メディア大再編」のレビューをいただきました。

レビュー頂くまで”コンテンツ”が躍進する話だと思っていたのですが、どうもメディア再編。特にTVからオンデマンド配信などユーザーのメディア体験の変化が本書のキーのようですね。わたしもAmazon帝国の一兵卒としてこの辺をずっと考えてるのですがAmazonプライムビデオの浸透速度早すぎるんですよね。

2015年9月サービススタートしてまだ2年足らずなんですが、映像コンテンツとの触れ方が大きく変化したって方も多そう。これが5年、10年経った時どうなっていくのか。しかし、角川歴彦さん(73)はクラウドからけものフレンズ、マストドンまでなんて吸収力と分析なんでしょう。


淘汰されるメディア。そしてメディア大再編を語るメディア本

どうも、ハンハンス@hanhans7thと申します。今回レビューをいたしますのは、角川歴彦『躍進するコンテンツ、淘汰されるメディアメディア大再編』です。

なのですが、その前に一つネタバレをさせていただきます。この本、躍進するコンテンツ、と題として書かれているのですが、その辺の話は無いわけではないんですが、通常の意味におけるコンテンツとは位相が違っています。いわゆる日本コンテンツ万歳みたいなのではありません。もっと冷静な、とみに冷静なものです。

では何をこの本は語りたいか、というと、題の後ろ二つです。つまり淘汰されるメディア。そしてメディア大再編です。この話にプラスして90年代から10年代のメディア史を著者の目線から語る、という形でこの本は構成されています。つまり、この本の主題はコンテンツではなく、メディアにあるということです。

アメリカと日本 二つの国のメディアの存亡

コンテンツではなくメディアにある。そうと言っていいとする理由は、主に二つの国のメディアの存亡について書かれているからです。二つの国。それは当然のようにアメリカと日本です。

まずアメリカ。これは最近のメディアの動向として、ネットフリックスの隆盛が主の線となり、スティーブ・ジョブズのifの目論見が副の線となってメディアの大きな変化の、存亡の話が織り込まれていきます。

それによって編まれた布には、新たな独占者、著中の言葉を借りた言葉を更に借りれば「モノポリー者」の誕生という名がつくでしょうか。そういう者の勃興を理解させる話になっています。つまるところ、その勃興者であるネットフリックスやその追従者であるアマゾンなどが、今の既存メディアを超克する。そういうイノベーションの織布の存在を、著者は予言ではなく確信として語っています

ここに日本がどう絡んでくるか、というのがこの本の大なる主題です。ネットフリックスは2015年に日本上陸したわけですが、そのここよりいずれ未曾有の大勢力としてなるであろう黒船によって、日本はどうなってしまうのか。日本の既存メディアはどうなってしまうのか。

そういうところを語っていく。のですが、この本の特色として、そこに至るまでが中々に迂遠な点があげられます

ネットフリックスの上陸の話から、一転して00年代付近のインターネット界隈の話、あるいはそこから更に戻ってハイビジョンテレビの騒動の顛末、あるいは日本でもあったイノベーション、光ファイバー網や地上デジタル、の話などへとなだれ込みます。

この辺りは当事者として絡んでいたりする著者の立ち位置と、それ故に知れている情報などを元に構成されていまして、大変興味深く読めるのですが、それがこの著書の半ばまであるという状況にあっては、元に戻ってください!と言いたくなるのもやんぬるかな。と思っていただきたい。

しかし、そこは本当に面白いです。民営化するまでの、電電公社からNTTへの流れの話やテレビというメディアの勃興とそれにまつわる話、つまるところ日本のメディアと商体質というのを安易に下げもせず、だからと言って上げもしない。

そこがこうなっていった、というのを出版人という部分が多分にあるがゆえの、冷静に状況を見る形がそこにはあります。商売人であるソフトバンクの孫正義氏への著者視点での正当な評価とかも面白いです。

振り返ってみれば、モバイル事業に手を出して、そして確かにモバイルは来たし、テレビにも手を出して、またテレビの今後も変わってくるだろうというのが見える。そういう時流を先んじて見ていた、という事実の列挙は氏への評価というのが門外漢では簡単にはできないものなんだな、と理解させるには十分です。若干持ち上げすぎな気もしますが。

何故長いと思われようともNTTとテレビの話をしようとするか。これは上記のイノベーションの織布がNTT、つまり通信と、テレビ、つまり放送メディアの二つに絡んでいるからです。インターネット、通信による、動画、テレビ番組の配信。この二つの糸が、日米ともに重要だからです。

そして、日本の話をするから、しっかり語られているのです。単なる蛇足じゃないのです。でも、ちょっと長いです。興味深いんですが、迂遠です

さておき。その話をされて読者側が思わされるのは、テレビというものの限界点についてです。

ネットフリックスのイノベーションという名の織布。これの内実はつまるところ、「いつでもどこでも誰とでも」、コンテンツを楽しめることです。テレビだけではなく、パソコンやスマホでも、垣根なくコンテンツを楽しめる時代が、もう来ているといっていい状態です。

では、翻って日本のテレビメディアを見れば? ネット対応に対して重い腰を上げ始めたような状態。しかし、織布の浸透は既に始まっています。中ほどまで進んでいるとすらいえます。実際待ったなしなのです。

それに対して、著者がどう思っているか。日本の既存メディアがどうなってしまうと考えているのか。というのはコンテンツで商売をしてきた出版人だからか、とみに冷静に語られます。その解答については、本書を読んで確認していただきたいと思います。黒船効用論、がキーワードです。

AmazonKindle電子書籍で『躍進するコンテンツ、淘汰されるメディア メディア大再編』

躍進するコンテンツ、淘汰されるメディア メディア大再編

角川 歴彦 (著)
価格:1,177円

21世紀、私たちはどのような分岐点に立っているのか。コンテンツのデジタル化、ITイノベーション、「黒船」来襲――。メディアの変遷の世界的動向とニッポンの事情の詳細を果敢に読み解き、打ち立てた、全産業「再定義」立国論! 闘う出版人の渾身作!

きんどうが気になっている新刊レビューしてくれる方募集

⇒ 続きを読む

【書評】コレは名著だ!受講=デビューという超実践本 SFの書き方「ゲンロン 大森望 SF創作講座」全記録

$
0
0

こんにちは、きんどるどうでしょうです。きんどうが気になってる新刊を代わりに紹介してくださいというゲスト書評企画。SF作家になる方法について恐らく最適と言えるノウハウ本『SFの書き方 「ゲンロン 大森望 SF創作講座」全記録』のレビューをいただきました。

まず講師陣が長谷敏司、冲方丁、藤井太洋、宮内悠介、法月綸太郎、新井素子、円城塔、小川一水、山田正紀とヤバイ。サンプルをDLして、本書の案内や開講の辞でダレたところで課題→サンプル→SFとは何かの説明。ヤバイ、これは骨太だというのがビシビシ伝わってきます。

SF作家になりたい、どうしてもなりたい!という方は本作をもとに愚直に取り組めばかなりゴールに近づけるのが間違いなしです。これは今の時代とは合わんなぁ……とにかく濃いです。SFファンの方、SF小説を書きたい方は是非チェックしてみてください。


SF小説とは?のヒントになる名著”SFの書き方 「ゲンロン 大森望 SF創作講座」全記録”

こんにちわ@akakurononekoといいます。ゲームと漫画とyoutuberが大好きな、どこにでもいる研究者です。

今回はSFの書評、翻訳で有名な大森望さんが人気SF作家らの創作ノウハウをまとめた講義本”SFの書き方 「ゲンロン 大森望 SF創作講座」全記録”の紹介をします。

この本は超実践的なシステムで運用されるSF講座の議事録です

この本は2016年4月〜2017年3月に行われた「ゲンロン 大森望 SF創作講座」第1期の議事録です。この講座は「受講イコールデビュー」という思想の元、SF小説を書くための創作環境、テクニックの教示だけでなく、課題に基づく受講者の梗概(あらすじ)や作品、講師による講評全てをネットに公開する、という超実践的なシステムで運用されています。

この本では、そうしたガチ講座で出された課題、課題に対して受講者が提出した梗概例、講義の議事録、受講者の実作例を掲載しています。

なぜこの本を手に取ったの?

私は仕事中「この研究が実現すると世界はどうなるか」を常に考えています。また、SF小説というのは、まだ私たちの世界にない原理・原則がある世界の出来事を描くわけですから、ある意味私が考えていることと近いのかなと思っています。なので、SF小説家がどのように創作活動を行っているかにずっと興味を持っていました。

そんな時に、この本に出会ったわけです。

特にこんな人に「ゲンロン 大森望 SF創作講座」を読んでほしい

・SF作家がどうやって小説を書いているのかざっくり知りたい方
・SF小説の書き方をざっくり知りたい方
・講師の1級SF作家(大森望、小浜徹也、長谷敏司、沖方丁、藤井大洋、宮内悠介、法月綸太郎、新井素子、円城塔、小川一水、山田正紀)のトークを読みたい人。

課題と講義内容がとても面白い

この本を読んでまず惹きつけられるのは、講座で出される課題です。とても魅力的。

たとえば、「『これがSFだ!』という短篇を書きなさい。」「『変な世界』を設定せよ」「決して相容れないものを並列させよ」など、これぞSF! といえる課題が多く出題されています。このテーマに沿って小説を書く練習をするだけでも、SF小説を書く能力が上達こと間違いなしかと。

また、講義では、各回ごとに設定したテーマに関して、講師が深い議論を行っています。たとえば、「SFとは何か?」がテーマの講義では、そもそもSFとは何なのか? から始まり、SFという言葉の定義の歴史的な変化、そしてそのような変化に不変なSF小説の要素の存在について議論しています。このような議論を拝見できるだけでも、この本を購入する価値はあると思います。

受講者の梗概 アピールポイントが見られる!

受講者の梗概・アピールポイントが見られるのもこの本の特徴だと思います。

梗概とは物語のあらすじのことで、この物語はどんな社会通念のある世界なのか、主人公は誰なのか、何が起こるのか、どのような結末を迎えるのか等を端的にまとめた文章のことです。梗概は実小説を濃縮したものなので、梗概が面白いと小説も面白い、とも言われています。

そんな梗概ですが、物語の流れが最初から最後まで書かれているので、基本的に読者の目に触れることはありません。ネタを全て把握してから、実小説を読む方は少ないですよね(最近増えているかも……)。ですが、ここにはその小説のエッセンスが全て含まれています。SF小説を書く人にとっては、梗概を読むことで、実小説の本質を抽出する際の参考になるのではないでしょうか。

また、アピールポイントでは、課題に対してどんな発想を元に小説を書いたのかを受講者本人が解説しています。

例えば、「『変な世界』を設定せよ」という課題に「もし地球が謎の宇宙生物に覆われてしまったら」というテーマで小説を書いた方がいます。その方のアピール文は”巨大な宇宙生物により空が見えなくなった世界で、どうやって宇宙生物の向こう側にある「宇宙」を証明するか?”から始まり、巨大生物による暦の概念・宗教観の変化などを丁寧に説明しています。

私は「ああ、巨大生物一つでここまで『変な世界』が作れるのか」と感心してしまいました。小説を書くまでの流れ・背景・発想は実作品で触れられることがほとんどないので、とても新鮮でした。

小説を書きたい人、書いているひとにとても参考になる内容です

私はなんとなく、小説は座敷に座って原稿用紙に書くもの、もしくは椅子に座ってワープロで……と思っていたのですが、講師の1級SF作家のトーク内で、スマホで文章を打ったり、立ちっぱなしで執筆したりなど、いろんな創作環境があるのだなと思いました。また、それらの創作環境を支援するデジタルツールやネタだしの方法なども講師の人が紹介しており、非常に参考になりました。

さらに、人工知能が書いた小説が星新一賞の一次審査を通過した話(http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG21H3S_R20C16A3CR8000/)を日本SF大賞の受賞作家である長谷先生が語っておりました。先生が、現状人工知能で小説を書くことに関してできていること、まだできていないことなどを正確に理解して話されているのは印象に残りました。

 最後に、本書ではSF小説の歴史というべき数々(20作くらい?)の名作がいたるところに挙げられています。まだ、読んでない本があれば、ぜひ読んで頂ければと思います。

個人的には「紙の動物園(ケン リュウ著)」(https://www.amazon.co.jp/dp/B00YGIKMNW/)に興味を惹かれたので、今度Kindle版で買って読んで見ようと思います。

 いかがでしたでしょうか?”SFの書き方「ゲンロン 大森望 SF創作講座」全記録”は、内容が非常に濃厚で、小説を読むのが好きな人、書くのが好きな人、両方にお勧めできる良作です!ぜひ読んでみてください!

 講義について興味がわいたら、ゲンロン 大森望 SF創作講座(http://school.genron.co.jp/sf/)へGO!

AmazonKindle電子書籍で『SFの書き方「ゲンロン 大森望 SF創作講座」全記録』

SFの書き方 「ゲンロン 大森望 SF創作講座」全記録

大森 望 (編集), ゲンロン (その他)
価格:1,555円

2016年4月、書評家・翻訳家・SFアンソロジストの大森望を主任講師にむかえて開講した「ゲンロン 大森望 SF創作講座」。東浩紀、長谷敏司、冲方丁、藤井太洋、宮内悠介、法月綸太郎、新井素子、円城塔、小川一水、山田正紀という第一線の作家陣が、SFとは何か、小説とはいかに書くかを語る豪華講義を採録(……)大森氏による付録エッセイ「SF作家になる方法」も収録の、超実践的ガイドブック!

きんどうが気になっている新刊レビューしてくれる方募集

⇒ 続きを読む

【書評】食道楽のワニがたまに野生を発揮するグルメマンガ 岡田卓也『ワニ男爵』第1巻

$
0
0

こんにちは、きんどるどうでしょうです。きんどうが気になってる新刊を代わりに紹介してくださいというゲスト書評企画。コミック誌『モーニング』のグルメ漫画 岡田卓也『ワニ男爵』第1巻のレビューをいただきました。

最初、表紙と内容紹介見てシュールすぎるだろと気になって仕方なかったんですが、講談社公式サイトで第1話スタート3ページがヤバイ。

うさぎ『かき小屋が今熱いらしいです』ワニ『気にはなってました』。もうナニコレ。繰り返しますが第1話の段階でなんかえらいもん見ちゃった感があります。読む人をかなり選びますが、スピード感と切れ味の鋭さにとにかく期待マックスです。


ワニ男爵があちらこちらへと食道楽するグルメマンガ『ワニ男爵』

 どうも。ハンハンス(hanhans7th)と申します。初めましての方は初めまして。そうでない方はどうも御贔屓に。今回紹介する漫画は岡田卓也『ワニ男爵』1巻目であります。

初見で『ワニ男爵』と言われて皆さまは何を想像されるでしょうか。ワニのようないかつい男爵でしょうか。あるいはそのまんまダイレクトにワニが男爵でしょうか。正解は後者。ワニが、男爵です

ワニ男爵は、シルクハットに蝶ネクタイ、手にはステッキと、紳士スタイルをきっちりと決めたジェントルマンです。その言動も思慮深く、機知に富み、また性格的にも鷹揚で温厚。知識も豊富で非の打ちどころのない完璧な紳士と言えます。その紳士なワニ男爵が、作家でもあるワニ男爵を先生と慕うウサギさんと一緒に、あちらこちらへと食道楽する、というのがこの漫画です。

つまりグルメ漫画の一種と言えます。食べるものは多岐にわたり、牡蠣やうどん、たこ焼きなどに舌鼓を打ち、作家ゆえの高い表現力でそれを評価する、というのが基本的な流れです、が

ワニ男爵はジェントルマンである、と書きましたが、しかしそれの奥には獣が眠っています。野生という獣が。 ワニ男爵は、偶にスイッチが入るとその野性を開放してしまうのです。

そうなってしまうと何も見境もなく、何が起きているのかワニ男爵自らも分からない、まさに暴虐の時間が訪れます。

このトリガーは何をもって引き絞られるのかがいまいち分からないのがこの漫画の怖さです。主に、過去のことを思い出す、ナイル川のこと野性全開で生きていた頃のこととか、そういうのを思い出すと、突然野性のままに動いてしまうようです

ただ、そこにあるのは怒りではなく憧憬に近いものがあり、つまりどうしてそこで沸点が上がるのかよく分からないので、いつ他の動物(この漫画は基本的に人間はおらず、二足歩行の動物がメインの世界)を襲うか、というホラーに近い部分があったりします。

うさぎさんが僕をご飯とみてないですよね、と聞くのもむべなるかな。一応、そんなことする訳ないじゃないですか、とは言いますが、果たしてそれは本当にそうなのか。野性がそこにまで及ばないという保証はあるのか。そこがちょっと怖いところです

とはいえ、その野性開放も毎度毎度ではありません。この巻では8話中3話でしかだしていないので、そこまで多い訳ではないのです。まあ、起きたらインパクト強くてもっとやっている印象ががありますけれども。

さておき。そんな野性のあるワニ男爵は、しかし、いやだからこそジェントルマンです。困っている人を助けることに躊躇しません。それが分かる話を二つ。

これは、ビアガーデンにきて骨しか食べられていないハイエナの家族に対して、直接お肉を渡すのではなく、頼みすぎたので食べるのを手伝ってくれませんか? という手管で振る舞うというジェントルマンらしい、相手の自尊心を傷つけない形での食事の誘い方であります。

大変紳士的ですね? その後も、ハイエナ父に感謝されるけど、子供たちのことをちゃんと考えてあげてくださいね? という流れにもっていくのでも本当にジェントルマンです。突くべきところを間違えていない。


 こちらの画像の方は、恋をした象に奮起を促した後、その様子をみつつ、でも振られてしまった、というので優しく、悲しみを一緒に受け止めてあがているところです。恋は決して甘いだけじゃなく、苦みもある。でもだからこそですよ。という部分が大変滋味深い言葉になっています。

そして何気に最後にその彼女の香りをダクトで嗅ぎたい、というのは諫めている辺りもジェントルマン。終わったならさっぱりと諦めなさいという教えであります。ダクトで嗅いでいるのが変態チックだったのもありますけれども、そこも含めて今後は駄目よ、とする紳士らしい〆でありました。

ということで『ワニ男爵』、基本的にはグルメ系漫画で、食レポもまた良いものがありますが、それ以外のワニ男爵のジェントルマンなところと、それが一転する野性の持ち主なところがこの漫画の味わいを引き締めているかと思います。ワニ男爵のジェントルマンなところはまだまだあるので、食レポと共に気になったら読んでみてください。、

AmazonKindle電子書籍で『ワニ男爵』

ワニ男爵(1)

岡田卓也 (著)
価格:540円

その名はアルファルド・J・ドンソン。ワニ。職業:小説家。楽しみは仲よしのウサギ、ラビットボーイとの食べ歩き(生ガキや讃岐うどんなど)。超ジェントルマンだけど、お店で時々「野生」が騒いでしまい…。モーニングで、作者も予想外の大反響! 動物好きも、食べ歩き好きも、貴族好きも、『あらしのよるに』好きもきっと満腹。ノーブルにしてワイルドな、なさそうでなかった漫画の誕生!

きんどうが気になっている新刊レビューしてくれる方募集

⇒ 続きを読む

【本宣】オモコロの社員としても話題のダ・ヴィンチ・恐山こと品田遊の新作SF短篇集『名称未設定ファイル』

$
0
0

こんにちは、きんどるどうでしょうです。出版関係者・クリエイターご本人から作品紹介をいただく番組宣伝ならぬ【本宣】。今回は品田遊の新作SF短篇集『名称未設定ファイル』の案内を担当編集者さんからいただきました。

品田遊=ダ・ヴィンチ・恐山さんは初単行本『止まりだしたら走らない』をカリスマニュースサイト管理人・まなめさんに書評いただきましたね。あれから約2年。連続でなんからしかの企画にうち関わってますね。

前回は東京の中央線がテーマの連作でしたが、今回はSF短編集とまた極端な振り方をしてきましたね。ダ・ヴィンチ・恐山はTwitterでは超有名ですが、知らない方は是非『オモコロ > ダ・ヴィンチ・恐山』の記事を御覧ください。フヒヒッってきます。

[スポンサーリンク]

オモコロの社員としても話題のダ・ヴィンチ・恐山こと品田遊の新作SF短編集

担当編集の黒川くりす@krikuroです。Twitterで7万フォロワー以上、人気ネットメディアオモコロの社員としても話題のダ・ヴィンチ・恐山こと品田遊の新作SF短篇集が発売しました。

デビュー作『止まりだしたら走らない』が各所で話題になって以来、2年振りとなる新作。はっきりいってめちゃくちゃおもしろいですよ!面白い!すごい面白いです!!

この本が完成するまでの一年間、原稿を受け取るたびに悶え震えました。鋭い眼で今と未来を観察して、観てきたように繊細な未来を描く、新しい時代のSF小説短篇集です。

加速するテクノロジーに感じていた漠然とした不安はこういうことだったのか? 彼の目には世の中がこう見えているのか。大喜利の鬼才としても知られるダ・ヴィンチ・恐山にしかできない、壮大な大喜利のような、世界への警鐘のような作品です。

物語と現実の境目に連れて行ってくれる、現実の感覚をおかしくさせるVRを体験するような小説を超えたエンターテイメント!

ネットでは、『名称未設定ファイル』読了。思わず考えさせられた。軽く読める本だが扱われているテーマは現代を象徴しており、非常に示唆的。空想の一言では片付けられない何かを感じた。というレビューが多くあがっています。

とにかく読めばわかる面白さです。今一番注目の作家、品田遊の新作、是非読んでみて下さい。

本文より

「フランシスコ・ザビエルbot」は寿也のサブアカウントだ。フォロワー数は9219人。宣教師フランシスコ・ザビエルになりきったツイートをする。

フランシスコ・ザビエルbot@f_zabieru_bot
日本人。。。。スイカ大好き。。。。でも。。。。日本人。。。。スイカ棒で殴る。。。。
ドウイウコト。。。。

母が一口サイズに切ったスイカを爪楊枝で食べながら、寿也は「スイカ」をテーマにしたツイートを送信した。botと言っても手動アカウントであり、寿也の気まぐれで書いた日本文化いじりネタは一部のTwitterユーザーにちょっとした名物のように扱われている。

何度もリロードするたびに「RT」と「♡」が増えていく。ものの5分でザビエルbotのツイートは100 RT、210お気に入りを超えた。寿也は次に検索ワード「ザビエルbot」でエゴサーチを開始する。

ザビエルbotwwwwwwwww
ザビエルbot、ひっさしぶりに見た。
なにこのザビエルbotとかいうの草なんだけど

『最後の一日』より

ネガティブになっています。誰かこのブログを読んでいますか? みなさんはこのブログを読んでいますか? 美容ブログ、とっても大切ですよね。みなさんはこのブログを読んでいますか? 不安ですよね。なんのために? ぜひお買い求めください。心配ですよね。とっても不安です。私は代なのですが、私は必要があるのでしょうか? 私は自動で生成する驚きの効果なのですが、私は必要があるのでしょうか? ぜひ読んで参考にしてくださいね。私は必要があるのでしょうか?

『1日5分の操作で月収20万! 最強ブログ生成システムで稼いじゃおう』より

Kindle版は7月10日発売『名称未設定ファイル』

名称未設定ファイル

品田遊 (著)
価格:1,200円

SNS、クラウドソーシング、人工知能、フェイク・ニュース、管理・監視社会、電脳世界―― 現実のリアルな事象をモチーフにした話から、近未来、超未来を舞台にした物語まで、 SF、ブラックジョーク、パスティーシュなど様々なジャンルを横断する短篇集。 小説デビュー作品『止まりだしたら走らない』が各所で話題となった 今注目の若手作家が鋭い分析力と想像力で紡いだ17篇。

⇒ 続きを読む

【書評】綺麗と悲しいと切ないがたくさん詰まった、魅惑の小説 乾ルカ『ミツハの一族』

$
0
0

こんにちは、きんどるどうでしょうです。新企画「きんどうが気になってる新刊を代わりに紹介してください(仮)」。文庫化でお手頃価格になりました乾ルカ『ミツハの一族』のレビューをいただきました。

Kindleでは2015年発売の単行本といまも併売されていてちょっとややこしい状況ですね。さて本作は「大正時代の北海道を舞台にした著者渾身のミステリ」と銘打たれてますね。

乾ルカさんは先日代表作の『メグル』が日替わりセールになっていましたが、死を題材にしながらもホラーというよりは死者の孤独などを描くことに長けた作家さん。"衝撃のラストまで一気読み必至!"という連作短編集を是非お楽しみください。


綺麗と悲しいと切ないがたくさん詰まった、魅惑の小説 乾ルカ『ミツハの一族』

きんどうさんの企画で書評を書かせて頂くのは二回目になります、えー@a_granhonと申します。よろしくお願いします。このたび私が紹介するのは、乾ルカさん著『ミツハの一族』です。

個人的に、乾ルカさんは短編の名手だと思っています。なにせデビュー作、直木賞候補作、大藪春彦賞候補作のどれもが短編集ときているのですから。作風の傾向としては、ホラーテイストだったり、どこか死を連想させるような、ダークなファンタジー要素を含んでいることが多いでしょうか。

本作『ミツハの一族』も五本の短編からなる連作形式で、さらには死者の想念を題材としており、作者が最も得意とする分野で書き上げたことになります。迷信と怪綺談、そしてどこか切ない結末。過去の作品でいえば、デビュー作である『夏光』との類似点が顕著ですね。作家生活の初期から描き続けている世界観を、今回も披露してくれます

死者の未練が村を滅ぼす

舞台は大正時代の北海道。遠い信州の地から入植してきた人々の暮らす集落、小安辺村で物語は展開されていきます。

村人の多くは入植以前から農業で生計を立てており、水源の確保は死活問題です。生きるため森を拓き、池を作り、村に水を引く。そこまではよかったのですが、とある問題が発生します。せっかく苦労して作り上げた池の水が、赤く濁り始めてしまったのです。

村人達に代々伝わる伝承によれば、水が濁るのは死者の無念が原因とされています。この世に未練を残して死んだ者は鬼となり、村の水を赤く濁す。未練を断ち切らない限り、水は元に戻らない。放っておくと、村は滅びるしかない。

そもそも彼らが北海道に入植してきた理由も、鬼と化した死者によって故郷の水源を汚されてしまったせいだったりします。一度滅んでしまった村の住民が新天地でも同じ危機に見舞われているという、切羽詰まった状況からストーリーは開始します。

村を救える唯一の一族

そんな小安部村ですがまだ希望は残されており、それが八尾一族の男女です。この家系は水の神を祀る神職の一族で、男は烏目役と呼ばれ、絶大な権力を与えられています。命じさえすれば、村人の命さえ自由にできるほとに。

女の方は水守と呼ばれ、池に立つ死者の姿を見ることができる、一種の霊視能力を授かっています。この男女ペアの探偵役がそれぞれの力を合わせて、鬼と化した死者の未練を晴らしていくミステリ風のストーリー仕立てとなっています。

鬼となった死者は誰なのか? 何が心残りなのか? 推理し、解決する。とはいっても謎解きそのものが主題ではなく、どちらかというと人間模様を描くことに力を入れているように感じます。出て来る鬼達も攻撃的な悪霊というわけではなく、同情的な理由でこの世に留まっている悲痛な地縛霊とでもいうべき存在で、なんとしても彼らの無念を晴らし、成仏させてあげたいと思わせるようなケースが多いです。

耽美に彩られた世界観

と、ここまで紹介したのは作品の骨組みであるあらすじ部分で、肉付けである文章のトーンはというと、しっとりした繊細な筆致が続きます。人も自然もどこか湿り気を帯びた、危険な美しさを孕んだものとして描かれています

特に八尾一族の女、水守は妖しげな存在感を放っており、その美貌から作中の男達を次々と虜にしていきます。主人公にして鳥目役の八尾清次郎もまた心を奪われた者の一人なのですが、水守の肉体が抱える様々な事情により二人が結ばれるのは困難となっています。

恋と呼ぶには距離があり、かといって友情や信頼と呼ぶには踏み込み過ぎている。清次郎と水守の、危うい関係性も本作の見所でしょうか。悲恋、あるいは禁断の恋と言って構わないと思います。水守の身体的な事情は早くに明かされるのですが、それによって大きく魅力が損なわれるとは感じませんでした。むしろ人によってはさらに思い入れが強まるかもしれません。

肉体という枷があるからこそ、プラトニックに燃え上がる清次郎に感情移入するのはそう難しくないはずです。読んでいるうちに私はどんどん水守の幸せを願うようになっていました。非常に特殊な設定でありながら、読む者を惹きつける手腕は見事と言わざるを得ません。

危うい魅力に溢れた、水守のキャラクター性が本作を読み進める原動力になる方は多いと思われます。
 

和風ミステリ、伝奇好きには特にお勧め

因習の支配する、古い日本で起こる事件を題材としているためか、横溝正史作品に通じるものがあると感じました。それをよりナイーブに、女性的な方向にしたような雰囲気でしょうか。鬱蒼とした森の奥にある池で、死者にひっそりと語りかける情景を思い浮かべながら読むのは、今の季節にぴったりなはずです。綺麗と悲しいと切ないがたくさん詰まった、魅惑の乾ルカ空間をぜひ皆さんにも堪能して頂きたいと思います。

AmazonKindle電子書籍で『ミツハの一族』

ミツハの一族 (創元推理文庫)

乾 ルカ (著)
価格:670円

未練を残して死んだ者は鬼となり、水源を涸らし村を滅ぼす―。鬼の未練の原因を突き止めて解消し、常世に送れるのは、八尾一族の「烏目役」と「水守」ただ二人のみ。大正12年、H帝国大学に通う八尾清次郎に、烏目役の従敬が死んだと報せが届いた。新たな烏目役として村を訪ねた清次郎。そこで出会った美しい水守と、過酷な運命に晒される清次郎を描く、深愛に満ちた連作集。

【東京創元社無料読本】 乾ルカからの招待 ここだけの『ミツハの一族』

乾 ルカ (著)
価格:0円 無料

2015年4月、大正時代の北海道を舞台に、水辺を守る一族を鋭く描いた著者渾身の連作ミステリ『ミツハの一族』を刊行いたしました。その魅力を、多くの皆様に楽しんでいただくため、『ミツハの一族』収録の短編「水面水鬼」をまるごと一編立読み増量版として、また、より作品世界を楽しんでいただけるよう、本作にも登場する北海道大学について語ったエッセイ「北海道大学とわたし」、メールインタビュー「ミツハを楽しむ十の質問」をあわせてお届けいたします。

きんどうが気になっている新刊レビューしてくれる方募集

⇒ 続きを読む

【書評】『谷川史子 告白物語おおむね全部 30th anniversary』

$
0
0

こんにちは、きんどるどうでしょうです。新企画「きんどうが気になってる新刊を代わりに紹介してください(仮)」。谷川史子のコミックエッセイ?というあとがきまとめ本『谷川史子 告白物語おおむね全部 30th anniversary』のレビューをいただきました。

谷川史子さんは現在も『はじめてのひと』を連載、最近では『おひとり様物語』『清々と』などの人気先もあるベテランマンガ家さんですね。その谷川作品の名物という『30年分の巻末おまけまんが「告白物語」』を1冊にまとめたというお祭り本が本作になります。

19歳のデビューからどんどん大人に、そしてベテランへと成長する姿はファンならずとも感じるところがあるのではないでしょうか。一読者としても楽しむもよし『わぁ、漫画のあとがきどうしよう……』というクリエイターさんには力強い参考書になる……かもしれませんね。


マンガ家エッセイとしても楽しめるこれは最高のファンブック

折鷹(@Oritaka365)です。初回のスーパーカブに続き、二回目の書評となります。

さて、書評というのもなかなか難しいものです。短い文章でできるだけたくさんの人に面白いと思ってもらわなきゃいけない。個人的に面白いと思っていても人によって好みや向き不向きがあるし、また本にも書評向けな本とそうでない本もあったりするわけです。今回はわりとそっち方面の本でした。つまり、読む人を選ぶ本。それが「谷川史子 告白物語(おおむね)全部」です。

表紙にデカデカと書かれた「30th」の文字でわかるように、かつてりぼんを中心に活躍され、現在も第一線で活躍中のマンガ家「谷川史子」先生のデビュー30周年を記念して発行されました。内容は今までの単行本の最後に掲載されていたあとがき的なエッセイ「告白物語」をまとめ、少しの加筆とゲストからもらったメッセージを掲載しています。まあ、いわば「マンガ家:谷川史子」のファンブックです。

こういった本は熱いファン以外は買わないと思いますが、熱いファンなら今までの単行本はほとんど読んでいるはずであり、意地悪な言い方をしてしまえば「重複買い」を求めている本とも言えるかもしれません。

ところが、これがなかなか面白いのです。

あとがきは好きですか?

日常のちょっとしたことをマンガ家が書くと、なぜこうも魅力的に見えるのでしょうか。

私はマンガ家のエッセイが好きです。よく白泉社コミックスにはページ左側に1/4スペースという空白があり、作品の背景やマンガ家の近況、小さなカットなどで埋められていました。私はそこを読むのが大好きで、マンガ家の生活や人物を垣間見た気になって喜んでいたものです。それがコミックスの最後にあとがきが書かれていたりすると大喜びで、本編の作品群より楽しめたりすることがあるほどです。

この本ではそういったあとがきが33冊分集めてあるわけで、それが作者の30年間の成長記録の側面もあるともなれば、マンガ家エッセイが好きな私が楽しめない筈はありません

内容はざっくり4部に分かれており、デビューの1986年から2000年、2000~2006年、2006年~2017年の少女系、その他系と、時代によって活躍の場が変わっていく様子が描かれています。

Caption:谷川先生の初々しい様子(当時)

個人的に好きなのは、やはり第1部です。まだ19歳だった谷川先生が七転八倒しつつ、時には担当に恫喝されながら(時代ですね)、必死に作品を作っているのが赤裸々に描かれています。それが単行本2冊目3冊目(告白物語2話3話)となってくると日々の生活が主になっていき、定番の画材の話になったり怪談になったりと(まあそれも日々ではあるのですが)、内容も一環していない、良く言えばバラエティに富んだ内容となっております。

やがて単行本を重ねるにつれて内容がこなれていき、ちゃんとした「読み物」なっていくのが実感できます。まるで友人のアルバムを見ているかのようです。

また、合間に合間にカットや4コマで描かれる日常が良い。

Caption:マンガ家の魅惑的な日常

谷川先生はデビュー当時から空間を描くのが本当に上手く、カットなどの小作品ではその空間感覚が存分に活かされています。「乾燥機が壊れた」だけでくすっと笑わせられるカットを書ける作家はそうそういないでしょう。

そしてクライマックス。ザギン(銀座)の占い師の話。

Caption:凄腕の占い師ヤバイ

当時単行本で読んだのを懐かしく思い出しました。腹をかかえて笑いすぎて数分動けなくなったのです。この頃から酒ネタがどんどん増えていきます。先生が大人の女性に成長しているのです

しかし泥酔して玄関で寝てしまうのはちょっと大人になりすぎている気もします。まあそういう自分をネタとしてさらけ出してしまうのがエッセイの面白い所でしょう。相方扱い(仲良し)の長谷川潤先生、お疲れさまですとしか言えません……。

Caption:こんなお遊びもあとがきならでは

マンガ家の華麗(?)なる生活

第二部の2000~2006年になると、りぼんからちょっと大人向けの雑誌「Cookie」へ活躍の場を徐々に移していきます。マンガ家としては新しい物に挑戦し始めた時期で、エッセイでも雰囲気が変わっていくのが見て取れます。

作品の打ち合わせ話は定番ですが、生活で女子高生に親切を受けた話、脳ドックの話、泥棒に入られるのを心配する話など、何を題材にしても面白く描けるというのは、まさに油が乗りきったマンガ家という印象が強く出ています。

中でも、幾夜にも渡る徹夜の末に幻覚を見てアシさんにドン引きされる話などは、原稿が遅いといわれる谷川先生の見たくない日常が見られてタイヘンオモシロカッタデス。(後日談あり)

Caption:あるあ……ねーよ

そして第3、4部の2006年~2017年。活躍の場は大人向けの「コーラス」を始めとして、「ココハナ」や「Young King アワーズ(少年向け)」など、さまざまな雑誌に向けて作品を発表していきます。もちろんエッセイも、ただ単にマンションから閉め出された話、服で突き指した話、うどんの話、ライブに間に合わなかった話など、もう何を描かせても大丈夫という安心感。その中で垣間見られる、「ちいさな出来事こそが読者の心を動かす」という感覚。これを身体で知っているからこそ、「おせんべいがおいしい」を楽しく面白く見せることができるのでしょう。

Caption:この凶悪なまでの可愛さよ…

見えないものを描く人、描いてない絵が見える人

最初に書きましたが、この本は読む人を選びます。このエッセイは既に谷川史子の世界を楽しんだ感覚を持って読むのが、最も楽しめる内容だからです。そういう意味でのファンブックですので、谷川作品を何作か読んでいる人ならかなり楽しめるのではないかと思います。もちろん、私のようなマンガエッセイ好きや、ましてや谷川先生のファンなら掛け値無しでおすすめでしょう。

告白物語初回の、誰も居ない座布団の絵。これに谷川先生が三つ指ついているのが見える人、それがこの本を楽しめる人の証明となるのかもしれません

AmazonKindle電子書籍で『谷川史子 告白物語おおむね全部 30th anniversary』

谷川史子 告白物語おおむね全部 30th anniversary

谷川史子 (著)
価格:720円
★★★★* 11件のレビュー

『こりゃひどい』(谷川史子・談) 谷川本名物!? 30年分の巻末おまけまんが「告白物語」が、1冊の本になりました。 描きおろしや単行本初収録作品も盛りだくさん! 単行本特典ペーパー、レアな1ページエッセイなどもおおむね全部のってます!

きんどうが気になっている新刊レビューしてくれる方募集

⇒ 続きを読む

【書評】女子飲酒マンガを比べてみました『ルーツビア』『のみじょし』『たくのみ。』

$
0
0

こんにちは、きんどるどうでしょうです。新企画「きんどうが気になってる新刊を代わりに紹介してください(仮)」。『ルーツビア』の書評の発展系として女子飲酒マンガ3作品の比較をいただきました。

グルメ漫画ブームの中で、最近飲酒ジャンルが熱くなってますね。最近のセールでも人気だった迂闊『のみじょし』、そして"裏少年サンデー"の火野遥人『たくのみ。』……少年?でいいのかな……まあいいや。

ほかにも『ぷしゅぅ〜』でおなじみ『ワカコ酒』や『酩酊すみれさん』『おとなのほうかご』……ちょっとズレますが『山と食欲と私』にも飲酒シーンがありますね。ビール飲みたくなる気持ちを盛り上げる漫画作品を是非この機会に選んでみてください。


女子飲酒マンガを比べてみました

こんにちは、初めまして、なだ@nadayoroiです。

ルーツビアの書評、他にも二人の方がされているので、もうぶっちゃけ語ることは何もないですね! なので私は違う切り口から攻めてみたいと思います! 女の子×お酒 というテーマで勝手に選んだルーツビアと他二つの作品を比較していきますよ~。共通点は複数の女の子がお酒を飲む!それだけです。

ルーツビア 1

ルーツ (著)
価格:600円
★★★★* 9件のレビュー

おさけ呑むべし、酒のむべし♪ ビール好きOLのすずが友人たちとたまにひとりで、そして時には見知らぬお客さんとグラスを傾ける。ニコニコ静画で400万再生突破のほろ酔いお酒漫画『ルーツビア』、100ページ超の完全新作を加えて登場です。

のみじょし(1)

迂闊 (著)
価格:491円
★★★★☆ 37件のレビュー

読めばモーレツ飲みたくなります♪ 高瀬道子(たかせみちこ)、29歳独身。 美味しいお酒の前でははしゃいでしまう、ちょっぴり残念なアラサー女子。 基本はビールや日本酒、時には渋めにウイスキー…同じ年のゆきやソノさんとついつい飲みすぎちゃって…。 「月刊まんがくらぶ」で大人気連載中の酒好きアラサー女子の呑ん兵衛コメディ4コマ! 新鋭・迂闊デビュー作にして初コミックス!!

たくのみ。(1)

火野遥人 (著)
価格:596円
★★★★* 18件のレビュー

転職のため東京にやってきた天月みちる(20)。 上京した彼女は、女性専用シェアハウスに住むことに! アパレル店員、ウエディングプランナー、女子大生。 仕事も年齢もバラバラな同居人たちだけど、 美味しいお酒と料理があれば、今日もみんなが集まって…!! 話して呑んで、疲れを癒やす“ほっこり暮らし”始まります♪

みんなビールを片手に飲んでますね。ルーツビアは料理もたくさん並んでてお酒をのみたくなる、いい表紙です。作中でもたくさんの酒の肴が出てくるので、読むとお酒を飲みたくなってしまいます。

のみじょし、はこの大きなビールジョッキがたまりませんねえ。アラサー女子の悲哀がいつも胸にきます。もはやヤケになって、開き直りながらの飲みっぷりは見ていていっそ清々しい限りです。たくのみ。のビールはやっぱり宅飲みなので缶ですねっ。ちょっと酔って目がとろんとしている感じが可愛いです。

さて、3作品の飲みっぷりを比較してみる

ルーツビア

のみじょし

たくのみ。

これはのみじょしが圧倒的に気持ちいい! 強すぎる飲みっぷりですね。

ルーツビアはOLの三人が色々な場所でビールを飲む、という感じ。とにかくフットワークが軽いので、居酒屋もファミレスも野球場にだって行っちゃう。わいわい騒ぐわけではないけれど、じわっと笑えるギャグを織り交ぜて、ビール飲んで、いつも変わる飲むその場所を楽しみます。

のみじょしは対してアラサーのヤケ酒を横で楽しむ感じでしょうか笑。とにかく、っぱああーーー! と酒を飲みます。そしてテンションが高い笑。行ってみたい、とかこんな風に飲みたい、とかうんちくがある! というわけではないのですが、29歳の彼女ら三人のお酒のある日常をみて楽しめます。

たくのみ。はやはり家で試したくなるお酒の飲み方、というのが多いですね。ルーツビアが外に出て実際に登場したたくさんの場所で飲みたくなるのに対して、たくのみ。は実際に登場したその話ごとのお酒を買って家で飲みたくなります笑。お酒のうんちくや豆知識も豊富で、楽しく学べます。

3作品を特徴で比較してみる

「ルーツビア」野球場にて、こういうおっさんたまに見かける

「のみじょし」シャンパンあけるのにこのテンション

「たくのみ。」お酒の豆知識が豊富で勉強になる

ルーツビアは、ここでビールを飲むか~、とビールを飲む場所とその場所に合ったビールを飲む感じ。もうなんかみんなおっさんなんですよね笑。たぶん外見をおっさんに変えても違和感がない。そこがなんかたまにシュールで、じわじわと面白さがきます。

のみじょしは、お酒が好きなアラサーの日々を描く感じ。独身の主人公はお酒の前ではすごくはしゃぎます笑。もうとにかくテンションが高いので、こんなうまそうにお酒って飲めるんだ、って感心します。体すべてを使ってお酒を飲める喜びを表現してる、みたいな笑。

たくのみ。は、家で試したくなる飲み方とかお酒のうんちくを学びながら可愛い主人公たちのシェアハウス生活に癒される感じ。可愛さは三作品の中でもダントツですね。

「ルーツビア」お店の選び方

「のみじょし」かにと日本酒

「たくのみ。」お姉ちゃんを心配する妹

ルーツビア、引き戸で店を選ぶこともあります、怪しい中華料理店にだっていきます、チェーンのお店にだって足を運ぶ。だからこそ、失敗することもあるんです。でも彼女たちはきっと、今日も新しい場所へと美味しいビールを求めていくのでしょう。

のみじょしの飲みっぷりは圧巻です。かにと日本酒! いいですね、やっぱりかにみそ食べたあとの殻に日本酒いれて飲みたいですねえ

たくのみ。可愛いですねぇ〜。とにかく優しい世界。仕事で疲れて帰ってきてもおかえりって言ってくれるルームメイトがいる。とにかくみんながみんな、他人を思いやる気持ちがあって、大切にして、その人のために何かをしてあげたいと思って、一緒にお酒を飲みます笑。

最後に、各作品のヒロインについて

ルーツビアの主人公、すずの職業は不明。

居酒屋でドライバーとかスパナをおもむろに取り出すことがある。たぶん、年齢も不明。酒にストイックなOL。焼肉にもストイック。一番おっさんっぽい。ボケ担当。一人でも居酒屋にほいほい行っちゃえる。というか吸い込まれてく。すずのボケはじわりとニヤリとします。ですが、なんといっても酒に対するストイックさが彼女の魅力です。

のみじょしの主人公、道子。29歳。独身。お尻フェチ。ビール好き。

最近の悩みは尿酸値の高さ(ビールの飲みすぎ)。年齢を重ねたことによる体のおとろえも感じている。落ち込んだり元気になったり、ジェットコースターみたいな人。

出張先の立ち飲み居酒屋で荷物をなくさないように、背負うこともできるツーウェイカバンを持ってくる。とにかく感情がすぐにでるんですよね。美味しい食べ物とお酒を目の前にすると目をキラキラさせて。そして美味しそうに食べて飲む笑。父にプレゼントするはずのお酒を間違って飲んじゃうとこなど、残念なところもあるけどそれがまた哀愁漂っていいんです。

たくのみ。の主人公は上京してきたばかりの新入社員

若いですね〜。高校を卒業してすぐ就職したので社会人歴はあるんですけど、初めて暮らす東京での生活に期待と不安を抱えながら女性専用シェアハウスへと越してきます。

お酒は飲み始めたばっかりだけど、将来を期待させてくれる飲みっぷりです。とにかく健気で可愛い。憧れの東京人になるために奮闘する姿はずっと見守っていたくなる。仕事はまだまだだけど、よくがんばっていて、でもそれが裏目に出てしまうことも。同じシェアハウスの住人に励ましてもらったり、一緒にお酒を飲んだりしながら、明日もがんばるぞい! と気合いをいれます。

いかがだったでしょうか? 女の子×お酒というところは一緒でも、それぞれの作品にはそれぞれの良さがあります。また、やっぱり読んでみないとわからないことも多いですし、好みもあるので、自分に合った作品を見つけられるとうれしいですね。でもどんなお酒だって、飲んでみないと味はわかりません! ぜひこの三作品も読んでみてください!! たまには読(飲)みすぎることがあってもいいかもですね笑

AmazonKindleで好評配信中です

ルーツビア 1

ルーツ (著)
価格:600円
★★★★* 9件のレビュー

おさけ呑むべし、酒のむべし♪ ビール好きOLのすずが友人たちとたまにひとりで、そして時には見知らぬお客さんとグラスを傾ける。ニコニコ静画で400万再生突破のほろ酔いお酒漫画『ルーツビア』、100ページ超の完全新作を加えて登場です。

のみじょし(1)

迂闊 (著)
価格:491円
★★★★☆ 37件のレビュー

読めばモーレツ飲みたくなります♪ 高瀬道子(たかせみちこ)、29歳独身。 美味しいお酒の前でははしゃいでしまう、ちょっぴり残念なアラサー女子。 基本はビールや日本酒、時には渋めにウイスキー…同じ年のゆきやソノさんとついつい飲みすぎちゃって…。 「月刊まんがくらぶ」で大人気連載中の酒好きアラサー女子の呑ん兵衛コメディ4コマ! 新鋭・迂闊デビュー作にして初コミックス!!

たくのみ。(1)

火野遥人 (著)
価格:596円
★★★★* 18件のレビュー

転職のため東京にやってきた天月みちる(20)。 上京した彼女は、女性専用シェアハウスに住むことに! アパレル店員、ウエディングプランナー、女子大生。 仕事も年齢もバラバラな同居人たちだけど、 美味しいお酒と料理があれば、今日もみんなが集まって…!! 話して呑んで、疲れを癒やす“ほっこり暮らし”始まります♪

きんどうが気になっている新刊レビューしてくれる方募集

⇒ 続きを読む
Viewing all 186 articles
Browse latest View live